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第164話

胸のポケットからナイフを取り出した根津は、それを俺に向けた。 「お前だけ何でそんななの?」 ナイフの刃を俺に向けたまま、根津の視線は千鶴に向けられていた。 その視線を遮る様に根津と千鶴の間に割り込んだ。 「いつだってお前だけが安全な場所で幸せになろうだなんて許せないよな」 「……そうかもな」 俺はずっと守られてきた。 ガキの頃は爺さんに。成長してからは真幸に。 俺が望んだ訳ではないけれど、それでも全部を失った根津にとって俺は恵まれた存在なんだろう。 ぶち壊したくなるくらい苛立たしい存在なのだろう。 根津が俺に執着するのは単純に、幸せになるのが許せないからだ。 かつての教え子が同じ裏の世界で堕ちていくのを見て、教え子に裏切られた過去を清算しようとしている。 根津は俺が何かを手に入れようとする度にそれを奪っていこうとする。 真幸だって、千鶴だって、そんな俺と根津の歪んだ関係に巻き込まれた被害者だ。

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