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1-1:午後0時の戦場 (3)

チラリとレジ横の列を見ると、その人は、2人分距離を詰めてきていた。 俺も新しい人に出会うたびに「身長いくつ?」と聞かれるくらいにはでかいけど、その人は身体つきが華奢だからかさらに細長く見える。 初めてレジ越しに向き合った時は(でかっ)と思ったけれど、それでも俺の方が少しだけ視線が高いことに気付いた。 気付いて、なぜだか嬉しかった。 「お次でお待ちのお客様、こちらへどうぞー」 宮下さんの間延びした声に合わせて、同僚と話を続けながらその人がレジに向かってきた。 同僚がおにぎりやら何やらを置くのを待ってから、その人は、ゆっくりと丁寧な動作で抱えていた商品をひとつずつカウンターに置いていく。 黒烏龍茶、わかめサラダ、カルボナーラ。 それが、この人の三種の神器。 最初は卵サラダだったのが、 「神崎主任、それじゃコレステロールの取りすぎで死にますよ」 のひと言でグリーンサラダに変わり、さらに 「神崎係長、毛根には海藻らしいですよ」 のひと言でわかめサラダに変わった。 メインに関してもすれ違いざまに会社の人からいろいろ言われていたけれど、週3回このコンビニにやってくる『神崎課長』は、カルボナーラだけは諦めなかった。 「温めますか?」 「お願いします」 「かしこまりました」 宮下さんからカルボナーラを受け取りながら、レジの前に立つ神崎さんを見る。 クリーニング仕立てのような真っ白のワイシャツに紺色のスーツ姿だけど、昼休みだからかネクタイは身に付けていない。 それでもピンと背筋を伸ばして立つ姿は、とても格好良かった。 「神崎課長」 「ん?」 「また付けっ放しですよ、ID」 「ああ、忘れてた」 小柄な女性にすれ違いざまに指摘され、首に下げたままだったネックストラップの社員証の部分だけを、胸ポケットにしまった。 もう何度も目にしたその仕草をなんとなく視線で追いながら、相変わらず指が長いな、なんて思ってしまう。

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