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終-3:午前10時の旅立ち (32)
「理人君はお母様似なのね。目がそっくり」
「でも口元はお父さん似だな」
「あっ……」
「とっても素敵なご両親だったのね」
「ああ、残念だよ」
「えっ……」
「生きている時にお会いしたかった」
「本当にね」
「……ありがとうございます」
くぐもった音になって、三人の会話が聞こえてくる。
二体の熊を残してそそくさと帰ろうとする父さんたちを手作りのクリスマスケーキをネタに引き留めたまではいいものの、肝心のケーキが出来上がっても、三人は『もういない人たちの部屋』にこもったまま全然出てこない。
理人さんに「小さい時の写真を見せて」と強請り、古いアルバムを次々と引っ張り出させてはあーだこーだと盛り上がっているようだ。
キッチンにぽつんと残された俺は、たくさんのいちごでデコレーションしたクリスマスケーキを前に、ひとり苦笑する。
俺もちっこい理人さんを見てみたいけれど、俺が顔を出せばきっと「親子水入らずの時間に水を刺すな」と父さんから無言の圧がかかるだろう。
あ、義親子水入らず――か。
しょうがないから、あと五分だけ待ってやろう。
俺は見ようと思えばいつでも見られるんだし。
そんな風に余裕ぶっている……と、
ピーンポーン!
「あ、いいです、俺が出ます」
理人さんに伝え、モニター越しに荷物を運んでもらうようお願いする。
宅配便のお兄さんは快諾し、玄関までとびきりの笑顔と一緒にそれを持ってきてくれた。
受領のサインをし、時計を確認する。
午後8時50分。
よし、計画通り!
「理人さん」
平たい段ボール箱を押し運びながら部屋に入ると、三人が同時に振り返った。
理人さんが慌てて立ち上がり、手を貸してくれる。
「なんだこれ、重い」
「俺からのプレゼントです」
「えっ」
弾かれたように顔を上げた理人さんが、俺の視線の先を追いかけるように、ゆっくりと目線を下にずらしていく。
そこには、
『お届け先:神崎理人様
送り主:佐藤英瑠』
してやったり。
きっと今の俺は、そんな顔をしているんだろう。
「メリー・クリスマス」
「……」
「開けてみて」
ハサミの刃を握り差し出すと、細長い指が躊躇いがちに受け取った。
そして、父さんと母さんの興味津々の視線に見守られながら、ひとつひとつの封を丁寧に断ち切っていく。
神妙な手つきでハサミを置き、ダンボールを開けた途端、ふたつのアーモンド・アイがまん丸になった。
「こ、これ、こたっ……こたっ……」
「こた?」
「こたつ!」
勢いよく投げ飛ばされた哀れなダンボールの片割れが、あっという間に部屋の端っこまで飛んでいく。
理人さんは、目も口も、なんなら鼻の穴までも思いっきり全開にしたまま、固まった。
「理人さん、憧れだったって前に言ってたでしょ?そのまま置いちゃうとさすがに狭くなっちゃうんで、ローテーブルは冬の間畳むことになりますけど……ってあ!今気づいたけど、こたつ布団一緒に買えばよかった。週末雪降ってなかったら一緒に見に行きませんんん!?」
「おっ?」
「あら!」
自分のプレゼントセンスを自画自賛しながら得意げに紡いでいた言葉が吸い取られ、代わりに興奮した男女ふたり分の感嘆符が耳に届いた。
ぎゅむうっと力任せに押し付けられていた唇はすぐに離れ、代わりに上半身がこれでもかと締め付けられる。
「……好き」
「理人さん……?」
「好き……好き……」
「え、えーと……」
それはものすごく嬉しいし「ドッキリ大成功!」なんてプラカードを掲げたいくらいの達成感もあるけれど、なんと言っても今は父さんと母さんがすぐそこで見てるし、なんなら母さんは動画とか撮ってるし、この感じだと確実にグループLIMEで佐藤家全員に拡散されると思うし、あとで我に返った理人さんが真っ赤になって寝室に逃亡する流れにしかならない気がするんだけど……。
「佐藤くん大好き……!」
ま、いっか?
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