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第6話 誓い(終話)

六 誓い  何度、俺たちはお互いの愛を確かめる様に行為を繰り返し、絶頂を迎えたことだろう。  忍が、女性の様に、男にとっては神秘のランジェリーを纏ってくれたことが、愛とは別の俺の欲望を最大限に煽ったようだ。  古代のギリシャやローマの美少年を愛した男達は、その恋人をこのように美しく着飾らせ、その肉体を享受したのだろうか?  若い俺たちが、その情欲を十分に堪能したと考え出した時、夜は明けようとしていた。  窓の外がほんのり明るくなっていた。 「忍・・・疲れた?・・・良かった?」 「うん・・・吾郎は?・・・満足した?」 「ああ、最高だった」 「・・・ブラ・・・取ってくれる?ちょっときつくなっちゃった」  俺は背中を向けた忍のブラジャーの留め金を外した。最小のカップを選んだのだが、忍の胸囲にはかなり小さ過ぎたのだろう。脇まで跡が付いていた。俺はその跡にそっと口づけした。  まだ柔らかい脂肪が育ち盛りの肋骨の上に付いている。柔らかく絹のような皮膚の感触。  忍は胸の前でブラジャーを抱える様にして後ろを見た。ぺろと舌を出して言った。 「・・・病みつきになっちゃうかも、へへ」 「パンティも脱ぐか?」 「うん、ちょっと気持ち悪い・・・」  『パンティ』という言葉が淫靡に響く。お前は俺の『女』になったんだと、ちょっと征服感を味わいながらそう言った。  俺は忍のパンティをそろりと脱がしてやった。  忍のペニスの前を覆っていた少し厚手のすべすべしたシルクの裏側は、忍の精液と体液でぐしょぐしょに濡れている。精液の塊が残っている。俺は匂いを嗅いでその裏側を舐め、白い粘液の塊を口に含んだ。 「やだ!」  忍が起きて俺からパンティを取ろうとした。俺はそれをかわすと、 「これは俺のもんだ!宝物にしようと!」 「吾郎の変態!ブルセラ・ショップに行ってるんだろ!」 「誰が履いたか分からないもんなんか、興味ないね。でもこれは忍のもんだから・・・」 「返さないとほんとに怒るよ!」  忍が睨んだので俺はしぶしぶパンティを忍に渡した。  忍はそれをベッドの下に投げたブラジャーの上にぽんと投げると、また後ろを見せて横たわった。 「もう眠い!寝よ!」  俺たちは深い眠りに落ちていった。愛し合い、悦びを分かち合った充足感・・・明日何が起ころうとも今の幸せがある。  夢うつつに、家の外で車のドアがばたんと閉まる音が聞こえた。玄関が開く音・・・俺は夢を見ているのだろう。  そうだ、俺はこれから週末になると忍を誘いにここに来る・・・忍が嬉しそうにキッチンから顔を出す。そして二階で鳥居と談笑している俺たちに、忍がコーヒーを持ってくる・・・とんとんという階段を登る足音・・・ 「おい、忍・・・玄関の鍵が閉まってなかったぞ!居るのか!」  鳥居の胴間声!襖がすいと開く!  隣の忍の身体がびくっとする・・・だが、何が起こっているのか分からない!  明かりが点いた! 「お!・・・お前達!・・・い、一体何をやっているんだ!」 「きゃっ!」  忍が本能的に身体を丸くして身悶えした。  鳥居は呆然として、ベッドで裸で寝ている俺たちを見た!  その血走った目は、目の前の事態を否定しようとして見開かれているようだった。だが、ベッドの下に落ちている、ここには有るはずがないブラジャーが見えた!  そしてその上にパンティが!  そのパンティの内側がさらけ出されていた。  ねっとりと湿って白濁が付着した陰部と股の部分が!電灯の光りでてらてらと光っている! 「貴様!忍に何て言うことを!」  鳥居はまだ明かりのまぶしさに眩んでいる俺を引き起こすと、俺の顔を殴った!  俺はベッドに倒れかかり、後ろの壁にいやというほど頭を打った。  俺は素っ裸で無様に股を広げ、鼻と口から血を垂らして激しく呼吸していた。息がそれでも詰まりそうなほど衝撃を受けていた!  鳥居に見つかった!  何て言えば良いのだ! 「兄貴!お願い!止めて!」  再び鳥居が俺を引き起こそうとするところを、忍が俺を庇って間に入った。 「俺が吾郎さんを誘ったんだ!吾郎さんは悪くないんだ!」 「じゃ、これは何だ!」  鳥居は濡れたパンティを掴むと忍の前に突きだした! 「それは俺がせがんで買って貰ったんだ」 「恥を知れ!」  ぱんと鳥居の平手が忍の頬を強く打った!  忍は打たれた方向に顔を向けたまま、手の甲を口に付けた。忍の足下にぽたぽたと血が垂れた。次の瞬間、忍はきっと兄を見た。 「俺が吾郎さんを好きになったんだ!抱かれたいと思って・・・だから、女の格好で誘惑したんだ!」 「まだ言うか!」  鳥居がまた忍を打とうとした。 「止めろ!」  俺はベッドから猛然と鳥居の胴にタックルした。俺たちはそのまま襖を突き破り、踊り場に倒れ込んだ。  俺たちはめくら滅法に殴り合った。二人とも鼻や口から血を吹き出していた。  悲鳴とも聞こえる忍の声がした。 「兄貴!俺たちの話を聞いて!じゃないと俺、死ぬよ!」  俺達はびっくりして忍の方を見た。  忍は震える手で、登山ナイフの切っ先を喉に突きつけていた。  俺と忍は、Tシャツと運動用のジャージを履いて、二階の鳥居の部屋で正座していた。  俺たちの前には、壁に寄りかかってティッシュで鼻の血を止めている鳥居が、片足を曲げて憮然と座っている。  鳥居は胡散臭そうに俺たちを眺める。顎を上げて俺たちを見下すその目には、軽蔑が込められていた。 「話しとは何だ?俺の弟を犯して何の言い訳だ?」  俺は忍が反発する前に、がばと手を前に突いて言った。 「俺は・・・忍さんを一生大事にする!だから、俺と忍さんの愛を認めて欲しい!」 「『愛』だあ・・・?」  鳥居はヤクザのような言い方をして身を乗り出した。 「男同士でくっつくのも有りだろうが、そのうち飽きがくれば、お前は忍をぽいとすてるだろう?この国じゃ結婚なんか出来ないし、子供も作れないでどう一生暮らすんだ?」  忍が食いつく様に言った。 「吾郎が俺に飽きればその時はそれでいいよ!俺は諦めるから・・・」 「忍・・・そんなことは絶対無い!」  鳥居が呆れた様に言った。 「あーあ、ご両人、お熱いことだが、忍!お前は未成年だぞ!お前から誘ったかもしれないが、こいつがお前にやったことは完全に犯罪だ!俺は許せねえ!」 「・・・いいよ。じゃ吾郎を訴えれば!俺はどこでも吾郎を愛してるって言う!」  鳥居は頭を抱えた。  忍は賢く優しい子だが、自分の信じたことは、小さい時から頑として曲げたことは無かった・・・  今度は鳥居の呼吸がせわしくなっていた。決断を迫られているからだ。  頭を抱えたまま、鳥居は俺に言った。 「・・・今は忍はまだ幼いが、そのうち身体も成長するだろうし、俺たちみたいにごつごつした身体になってくる。それでもお前は忍を抱けるのか!」 「ああ・・・抱ける!」 「!・・・勝手にしろ!」  今度は忍に向かって、 「良いか!忍!この家から出るなんて許さないぞ!まだお前は俺の保護下にあるんだ!俺には親父の代わりの責任があるんだ!いちゃつくんなら、俺の居ない時にしろ!」  俺と忍は顔を見合わせた。 「吾郎・・・それでいい?」  俺は何度も頷いた。 「分かった・・・兄さん、有り難う」  それから俺たちは週末に俺の下宿で会うか、鳥居が出張したときに鳥居家で愛の生活を営んだ。  鳥居はその後、家ではなく街の居酒屋で俺と飲む様になった。  昔の様に和気藹々とは話せなくなったが、黙々と二人で呑み、忍とのことを時たま話した。  酔った勢いで、鳥居は聞きたくないことを問う。平日に家に帰れば、忍はいつもと変わらず、兄の身の回りの世話をする。だが、俺の前では愛する弟がどんな様子なのか、心配なのだ。 「また忍に女のパンティ、履かせているのか?」 「いや・・・俺はそんなことを頼まないが・・・忍が時々・・・気が向くと」 「今に化粧し出すんじゃねえのか?」 「忍はあのままで最高にきれいだ」  鳥居は早く忍と別れやがれ、と何度も口癖の様に言う。  そうすればまた昔と変わらず付き合ってやると言う。残念だがそれは永久に起こらないな、と俺は返す。  確かに忍はまだ幼い。  俺が忍の『受け』としての性向を開いてしまったのかも知れないが、彼の未来はもっと洋々としているはずだ。  女の子に恋をするかも知れないし、他の男に憧れるかも知れない。  俺はそのときは静かに身を引くつもりだ。  忍は俺と居る時は確かに俺とは違った性を持つ生きものだ。忍と居る限りは、俺は女性に興味を持つことはないだろう。  忍が成長して、その容姿に変化が起こるだろうと言うことに、俺はやはり恐れを感じている。  鳥居が言った様に、そんな忍を抱く気になれるか、俺にはまだ分からない。  その時が来れば・・・そんなことが起こるのか分からないが、ここで一旦、俺と忍の物語について筆を置こうと思う。  少なくとも今は、忍の愛に包まれているのだ。 忍 完

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