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第5話
神田がドアを開ける。
「どうぞ」
兄さんはスーツを着こなして、車を颯爽と降りた。
「祐、部屋に来なよ、いいものを見せてあげるからさ」
「うん」気が重かった。またあの悪夢が始まるなんて思いたくなかった。
「あ、神田、お茶持ってきてよ」
「はい、かしこまりました」
_____
よく磨かれたドアノブを握って数秒迷っていると、兄さんの声が聞こえた。
「祐、いるんだろ、入りなよ」
「なんでわかるんだよ」
「さあ」
清潔感のあるセットされた髪はよく似合っている。
適当な椅子に座った。
「祐さあ、学校はどうなの?」
「、、別に、普通だよ」
「少し成績落ちたって聞いたけどなあ」
「この前の模試は」
「ダメだよ、常に上位にいなきゃいけない」
「なんでそんなに干渉するんだよ」
「自分の立場に自覚を持たなきゃいけないからだよ」
そんなのはわかっている。父も母も亡くし、残されたこの大きすぎる家と財産を守る責任があるのは兄さんと自分しかいない。
そして、兄さんの欲求を満たせるのは自分だけだということも。
「たった半年会わないだけでこんなに生意気になるとはね」
「うるさい」
立ち上がって部屋を出ようとした時、タイミング悪く神田が入ってきた。
「祐様、一度、落ち着かれてはどうですか」
アールグレイの香りが漂う。しかたなくもう一度座りなおした。
「神田」口を開いたのは兄さんだった。
「いかがなされましたか」
「祐がこの家にふさわしい人間になるためには何が必要だと思う?」
「、、と、言われますと」
「忍耐だよ、祐は我慢が足りないんだ」
神田に言うようなことではない。
反論しようとしたその時、視界がぐらりと揺れる。
「に、いさん、」
「久しぶりだからね」
「、、それでは」
行くな。その声も出せない。
「神田もここにいなよ。いつもとは違う祐が見れるよ」
「仰せの通りに」
ああ、悪夢がついに始まった。
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