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しろいこおり-3

どれくらい歩いただろうか。 靴の中が冷たくなって、薄い羽織は肌に張り付く。手足の先が固まって動かなくなってきた。まっさらだった白にぼくが踏み入れた跡が黒く残って、少し経てば跡形もなかったかのように戻る。 長く伸びた前髪が、濡れて冷たい雫を顔に飛ばし、高く一つに結んだ後ろ髪の毛先が首回りを撫でる。ぴゅう、と強く風が吹けば、冷たくなった肌に白い粒がぶつかってピリピリと刺激を与えてくる。 吸い込む空気すら胸を冷やし、鼻の奥をツンと痛めつける。見えるところすべてが白く、まっすぐ進めているのかもわからない。ただひたすら苦しくて、もう足を進めたいとは思えない。埋もれる足を引き抜いてまた白い氷の中に入れる。 ぼくは、どこに向かってるんだろう。 誰にも見つからないところで、死のうとしていたんじゃないのか。 進む理由をなくしてしまったぼくの足が止まる。気を抜くと、強い風に体を持っていかれそうになる。風でなびく髪に視界を遮られながら辺りを見回した。周りはすべて白く染まっていて、目立つ建物や人は見当たらない。道を示す看板も、 白く覆われてしまっている。 道の先もわからず、進む理由もないぼくに、もう歩くという選択肢はなかった。 しかし、先があるなら進まなければという、謎の義務感のような、使命感のような、脅迫じみた心の声に動かされて、足を前に進めた。立ち止まっていた時間が長かったからか、思っている以上に足が埋まっていたらしい。なかなか抜けない足に、今さっき感じた使命感が削がれていく。代わりに、できない悔しさがもやもやと胸の中を占めてきて、力任せに足を引き抜いた。抜けたと喜んだのもつかの間、強い風に体を煽られて、次は体ごと埋もれてしまった。 「いった……」 白くて柔らかいのかと思いきや、意外にも硬く、残された左足が本来曲がらない方に曲がったのを感じ、体を打ち付けた痛みよりも足の痛みが優った。埋もれたところから、もうわずかにしかなかった熱を奪われて、冷たさを通り越してチクチクと刺すように痛んだ。 (冷たい、寒い、痛い) 体は全体的に冷えていくのに痛めた足だけ熱い。お昼のサンドイッチ、ちゃんと食べればよかったと、乾いた口の中を潤すように唾液を飲み込んだ。 このまま眠ってしまえば、両親に会える。 それだけが、今のぼくを強くしてくれる。 ぼくの体に、白い氷が積もっていく。それはどんどん重みを増して、ぼくの小さな体を埋もれさせていく。 「おとうさん……おかあさん……」 おとうさんからもらった赤茶色の髪の毛。冷たくなった指先で毛先を握れば、おとうさんを思い出す。 おかあさんからもらった紫色の瞳。大事に大事に、まぶたの裏に隠した。 両親にもらった革のリュックが、ぼくの背中を暖かく守ってくれているように感じた。

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