2 / 3

しろいこおり-2

煙が吹き出す大きな音が鳴って、汽車は進んだ。広くはない座席の端に寄って座る。ガタガタと道が悪くなるたびに尻が持ち上がる。大きなサンドイッチが入ったお弁当を抱えて、窓の外を眺めた。黒い街が前から後ろへと流れて行き、徐々に緑が多くなってくる。少しいったところに、森があったことも知らなかった。生命力の強い木や草花たちが並び、様々な緑で彩っていた。初めて見るきれいな色に、きっとぼくの目も輝いている。 時折隣にいる人が変わりながら、いくつもの駅を過ぎた。日が暮れてもまだ汽車は走り続ける。 日が暮れてだいぶ経った頃、お弁当箱を開けた。たまごと、ハムと、チーズのサンドイッチ。見た目は美味しそうだったそれを、一口かじって袋に戻した。油っぽいハムと匂いのきついチーズが合わさって、泥みたいな味がする。ねっとりと口の中にへばりつくパンを飲み込んで、袋の中に戻したサンドイッチはカバンの奥底に押し込んだ。 何駅過ぎたろうか。隣の人が寒いと言ってカーテンを閉めてしまったので、外の様子は見られない。たしかに空調でゆらゆらと揺れるカーテンの先の窓から、冷たい空気を感じた。窓は閉めているはずなのに、なんでだろう。 (うわ……っ、すごい、白い) そっと覗き込んだ外は、暗くてもわかるほど白かった。あれはなんだろう。分からないけれど、まっさらなそれは綺麗だと思った。金持ちの子供たちが着ている服と、同じ色。眩しくて、暗いのにキラキラして、静かだ。 シュー、と長く空気が抜けていく音がする。甲高い金属が触れ合う音と共に聞こえるそれは停車の合図だった。ジジジ、と頭の上から音が降ってくる。 『お知らせ申し上げます。ここから先、積雪の影響で運休をいたします。先の駅には向かいません。戻りの列車の出発予定も未定です。次の駅で皆さまお降りください。繰り返します……』 難しい言葉が並んで、ぼくには全く理解ができなかった。隣の人がめんどくさそうに顔を歪ませ、腰をあげて降り口へ向かっていく。きょろきょろと辺りを見回すぼくに、車内の点検に来た車掌さんが声をかけてくれた。 「ごめんね、この先は雪が深くて進めないんだ。どこに向かう予定だった?」 「……この電車の一番最後の駅です」 「歩いて向かう人たちもいるみたいだから、そこについていくのもアリかもしれないな……みんなに、話してみようか?」 「いいえ、ぼくはこのまま……」 その先は、言わなかった。車掌さんは何も聞かず、頷いて出口に促した。 外に出ると、袖口と裾から入ってきた冷たい風に、体を震わせた。空から降ってくる白い物体が、服については透明になる。分厚い服を着た大人たちが身を寄せ合って話している姿を横目に、僕はそそくさと改札をでた。

ともだちにシェアしよう!