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第26話
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翌日、昼頃に伊織と俊介が家へ訪ねてきた。
また何かを言われるのかと少々苦く思うのだが、縁側で対面した途端、頭を下げられて驚いた。
「いままで悪かったな」
一体何が起こっているのか理解が出来ず、頭の中にエラー音が鳴り響く。
俊介が、伊織の華奢な肩を軽く叩いた。
「伊織、捻くれてるから……俺からもお前に詫びる。こいつを許してやってくれ」
俊介までもが頭を下げてきて、慌てる。
「よくわからないけど、頭を上げ――」
「何のつもりだ? まだ響に何かちょっかいを掛けてくるならば俺はもう、躊躇なくお前らを蹴散らすぞ」
普段は優しげな雰囲気を纏っている仁が、今は、とても険しい顔をしている。
頭を上げた伊織は顔を顰めながら唇を尖らせ、そっぽを向いた。
「だって。響ずるかったんだもんさぁ。仁から愛されているくせに、素直にそれを受け取らず妙に遠慮してて。そんなだったから俺、仁をずっと諦められなかったんだ」
俊介が伊織の頭を小突く。
「自分の言動、行動を他人のせいにするなよ」
「それで、そんなお前が何故今更響に頭を下げるんだ」
仁から低い声で問われ、伊織は益々顔を顰めた。
慌てたように俊介が伊織の前に飛び出す。
「こいつはこいつなりに、響と仁さんのことを考えていいたんです。だから昨日の、響の何か吹っ切ったような顔を見て……今までのことを思い返して反省し、散々響をいじめたことを謝りに――」
「ごめんって、言ってるだろ。悪い風にはもう言わないからいいじゃあないか」
完全にすねた顔をした伊織だが、そんな表情をしても顔立ちの綺麗さは変わらない。
仁がため息をついた。
「こんなことを言っているが、どうする? 俺はお前の気持ちに従うぞ。許せないならばこいつらをもう、二度とお前に近づけさせない」
三人の視線が集まってきた。皆、表情が真面目なものへと変化してゆく。
俺は、仁を見つめた。手を伸ばし、腕に触れると手を繋がれて……伊織と俊介へ交互に視線を移す。
「しこりが残らないと言えば嘘になる。でも、俺も悪かったってわかったから。だから……もう嫌なこと言うなよ?」
と、言ったらすぐに二人ともが胸を撫で下ろしたような顔をした。
そんな表情を見せられたらふと、悪戯心が疼いてしまう。
「それで、二人はいつになったら恋人をつくるのかな」
明るく言うと伊織が腕を組んだ。
「そんなもんすぐにできる。失恋には新しい恋をするのが一番だし」
俊介の肩が揺れた。
「そ、うか? しばらくそういうものには無縁な生活を送った方がいいんじゃあ?」
「はぁ? 何でお前にそんなことを言われないといかんのかね。単なる腐れ縁の幼馴染ってだけなのにさぁ」
――この様子では、俊介は伊織にまだ告白をしておらず、その恋心も消していないのだろう。
仁が何かを察した、と言わんばかりに片方の眉を上げた。
「青い鳥だな。幸せは案外身近にあるものだ」
どうしよう。にやついてしまう。
焦ったようにまごまごとし始める俊介を見て、伊織は首を傾げた――かと思えば、見る間に顔を赤くさせた。
「こ、こ、こいつとなんてあり得ないから! ああっ、もう!」
頭をわしわしと掻き毟り、背中を向けてくる。
「帰る!」
叫ぶように言いながら歩き出す伊織の背中を俊介が追った。
「ちょ、伊織! 待て――」
「誰が待つか阿呆」
なんて、二人の騒々しい声が遠ざかってゆく。
仁が腹を抱えて笑い出した。
「あの様子じゃあ、伊織は俊介のことを少しは意識したな」
「もう。ちょっとだけからかうつもりだったのに、意地の悪いことを言うんだからさ」
鼻を鳴らしてくる。
「知るか。今度はこっちがあいつらを弄る番だ」
そして、頭に手を乗せられた。
優しい仕草でそこを撫でられ、気持ちよさに目蓋を細める。
……緑が目に眩しいな。
「なぁ。そういえば髪……まだ切ってもらってないよ」
邪魔な前髪に息を吹きつけながら言うと、仁の手がそれをかき上げた。
露になった額に降ってきた唇。触れてきたその感覚に、心が震えるくらいの幸せを齎され――
どうしようもない愛しさに、また少しだけ、泣きたくなった。
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