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sweet poison.

いつもの様に呼ばれ、いつもの様に駆けつけて。 真琴の気分で時折始まる。 火のついていないタバコが落ちて、その冷たい声にセリフに従う。 自分でもよく分からない。 けれど、今日も従っている。 「く...っ、ふ...」 「あっは...すごい眺め...恥ずかしくないの?」 「恥ずかしいに決まってんだろうが...っ」 ネオンの光が街に散らばり始めた頃、その夜景を背に目の前の整った幼さの残る顔を見上げていた。 初めてではない。 いつもの様な無茶苦茶な言いつけの一つにすぎない。 部屋の片隅、ガラスケースの中で蠢く妖美な蜘蛛。 それと自分が一瞬重なると、口の端から苦笑が漏れた。 「(自分で考えてりゃ世話ねぇな。)」 「...なに?」 「なんでもねぇよ」 少しムッとした表情の微妙な変化にも気がつくのは我ながらさすがだと思う。 頭上の手首のネクタイが自由を奪う。 犬のような首輪から繋がれた2本のベルトが身をよじるとギチッと嫌な音を立てた。 太腿にくい込む革の感触も初めてのことではない。 はだけたグレーのシャツ。下は指示されて自分で脱いだ。後ろに差し込まれたT字の妙な玩具。 こんなもの、どこで手に入れたんだろうなんて毎回一瞬無駄に考えてみる。拘束したいなら、その目の力を使えば済む話なのに。 それでも、ベッドの上、開脚具を装着した変態としか言いようのない格好を蔑むように見下ろされていた。 「そんなにお仕置きされたいんだ」 「俺なんかしたか...?」 「自分の胸に聞いてみれば?」 覚えはない。多分。 見据える大きな目がふっと笑う。 そのまま違う玩具を手に取ると、プチンと電源が入る音が耳に届く。予想通り押し当てられた。 「...!!!ぅ...く...っ!」 「ここでしょ、知ってる。だから当ててあげない」 低周音を放つそれを弄ぶように、体の上で執拗に滑らされる。 焦らされる様な場所ばかり当てられると、息苦しくて思わず身をよじった。 体のこわばりと共にどうしても後ろに力が入るのか、その度に動くものも厄介でしかたない。 この玩具と同じだ。同じように真琴の気分で時折始まる。 「ま....こと....っ」 「...マッサージしてやってるだけなのに、なにこれ?」 固くなったけれども、根元と袋にはめられたリングがキツくしまる。ペチペチと震える玩具で叩かれると、その刺激に鳥肌がたった。 「くくっ...澄快って結構、変態だよね」 なじられても、いつもの事だから大したことはない。 ただ目の前の真琴は楽しそうで、それを静止することは出来ないししない。 犬という言葉にどんな意味があるのかは分からない。 それでも、目の前の少年を注意深く見据えていた。 「辛いの?しかたないな」 「!!」 気の向くまま腿をさ迷っていた玩具がふいに腹筋を上がり、いきなり胸に推し当てられると背筋に電流が走った。 今度は執拗に乳首をグリグリと責め立てられる。 噛み殺しても漏れる声に熱くなる顔を肩口で隠すと、髪を捕まれ顔を見せろと言われ口に指を押し込まれた。 「澄快って、ほんとここ好きだよね、男のくせに」 「...ゃ...めろ...っ」 「声も聞かせなよ...指噛むなよ」 「...はっ...!ぁは...っ...ぁあんっ」 「はっ...こんな所弄られて女の子みたいな声出してさ、ほんとダサいよね。澄快って」 「はぁっ...あっ...」 何を言われたってかまやしない。 自分が何をしたのかは定かじゃないが、何かがあったのではないか...と感じていた。 八つ当たりと言う言葉は単調すぎて的を得ないが。 今日は、やけに荒れている気がする。 生まれ落ちる前から運命づけられた、王族にして元次期国王という立場。今は、裏で王政を崩壊させた大統領政府から命を狙われる身。 血縁関係で昔から顔は知っていたが、その真琴の心中は計り知れないものがあった。 だから、心配になる。 「は?...何かって、なんで?」 「...いや...なんとっ..なく...」 口に指を入れられているせいで実に間の抜けた発声になる。 「......」 「...!!ぁあっ.!..くっ..ぅん...!」 「僕のボディーガードの癖に、僕にこんなにされて、聞いて呆れるよね」 予期せず突然、玩具がモノの先へ当てられた。 構えていなかった分襲う強い刺激に、腰が跳ねた。 いつもは寸止めでいじり回された挙句、自己処理なんてこともあるのに。 自分にはその気があるんだろうか...いいや!断じてないと言いたい。刺激に飲み込まれそうになる自分を妙な気持ちで受け止めて、心の中でため息をついたのはせめてもの抵抗だろうか。 翻弄されている間に、ぎしりとベッドが音を立てた。 胸の上に重みがかかり、真上で見下ろす視線とぶつかった。 「澄快...やって?」 心なしか熱に浮かされたような、そんな顔で黒いズボンのジッパーを自ら下ろす。 目の前に差し出された華奢な真琴のモノは、固くなっているようだった。 「...食べて?」 真琴がそう指示するなら、拒否権などない。 おずおずと舌で受け取り口に含むと、真琴の体がピクリと反応したのが分かった。 「もっと、舌使って、足りない」 「ん...っ」 ピチャピチャと卑猥な音が静かな室内に響く。 窓の外では喧騒に紛れて日常的なクラクションやサイレンの音が遠く聞こえていた。 自分だって健全な男だ。エロい事だって嫌いではない。 自己犠牲的な気持ちとは裏腹に、いいだけ焦らされた体は反応していた。 「もっと...つよく...っ」 歪んだ言葉の節々に、時折聞こえる真琴の自虐的なセリフは何を意味しているのだろう。 ただ要望に答えることしか出来ないもどかしさは、今に始まったことではない。 少し強めに歯を立てる。舌先で荒く尿道を探る。 青臭い匂いが鼻について真琴の小さな反応に気づく度、後ろに無意識に力が入ると、それが動いて新たな快楽を生む。 真琴の息が上がってゆく。前立腺が刺激される。 頭を抑えられて、喉奥までピストンされる頃には後ろのもどかしい刺激がたまらなくなっていた。 「うっ...はぁっ...いくっ.........す...かい...っ!!」 「ぅ..んん...っ!!」 「はぁ...はぁ......全部...のんでよ...」 半ば強制のように鼻をつままれ、喉仏が動いた後少しむせた。 「......あれ?...もしかして澄快も、イったの?」 リングのせいで長い快感に揺れていた腰に気づかれた。 不自由に強制された足の間、括約筋に連動して動く玩具と、透明な先走りで濡れた下腹が真琴の目に晒された。 「うそ、お尻だけで...て、ドライ...?澄快、体で稼げるんじゃない?」 「み...見んなっ...」 「ぷっ...てゆーか耳まで真っ赤だけど」 「...全部見んな...っ!」 信じられないものでも見るかのように楽しそうに笑われると、さすがに顔を覆いたくなるが叶わない。 また肩口で顔を隠していると、額にふいに柔らかな感触が降りてきた。 「ほんと...ダッサい」 熱い舌で耳を優しく舐められて囁かれた。 急な優しい口付けにポカンとして真琴の顔を見上げると口角は上がっているけれど、今にも泣きそうな顔に見えた。 「真琴......」 「なに?」 「俺は、絶対お前を守るし裏切ったりしない」 「澄快...」 「だから、安心しろ」 犬だからなと、自嘲してみる。 自分に出来ることは数少ないけれど。 「...ぶっ!」 「?!」 「そのかっこで...どう安心しろと...?」 「!!!」 珍しいくらいに笑う真琴に、今更冒された状況に顔から火が出そうになる。 お前のせいだろうが!と悪態をつくも、腹を抱えて笑われ苦虫を噛んでいると、顔を正面に戻された。 「...澄快は、呼んだら1分で来ればそれで良い」 弱いんだから。 両頬に手を添えられたまま、食むようにキスをされた。 驚きつつ、されるがまま受け入れていた。 多分心のどこかで分かっている。 真琴の存在、受け入れる自分自身、置かれた立場、生まれい出る感情。 いつになく甘い感触の中に混じる縋るような感触を見つけると、丁寧に受け入れる。 合間に見えたそこにはいつもの真琴の不敵な笑みがあった。 「分かってるよ」 本当は気づかないふりをしているのかもしれない。 けれど目先のことが大切なのも揺るぎない確かなことで。 横暴な態度や、紙一重で壊れそうな表情がただそこにあるから、今日も従っている。 だから今日も、応えることをする。 end.

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