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第1話 初バイト

 世はクリスマス前。町はこれでもかってくらいキラキラしてる。流れるクリスマスソングは既に耳タコだけど、そのうち全部聞き流せるようになる。 「クリスマスケーキのご予約はお済みですか?」  ケーキ屋の前で売り込みをするトナカイは、前を通り過ぎる人の波を見ながら体を震わせた。 「さむ…」  思わず呟くが、頭だけはわりと温かい。下は茶色に腹が白くて鈴のついたトナカイ着ぐるみの薄いのだけど、頭はわりとしっかりしたものだ。なんだこのアンバランスさ。  でも俺はめげない、負けない! なぜならこれは、俺が言いだした楽しい時間の為なんだから。 =====  話は12月の頭に戻る。俺は今年付き合い始めた和樹の部屋でこれからの予定を提案していた。 「なぁ、クリスマスしようよぉ」  俺の提案に、和樹は少し素っ気ない。その目は真面目に教科書に落ちていた。 「いいけれど…。その前に、期末テストパスしないと」 「大丈夫!」 「その根拠はどこから来るの、亮二。ギリじゃないの?」  和樹の言葉に、俺は一人「ふふーん」と得意げだ。 「それが俺、お前と付き合ってから成績上がったんだよ」 「そうなの?」  和樹は少し驚いた顔をした。けれどこれは本当に本当で紛れもない事実なのである。 「ほら、二人でいる口実に勉強教えてもらってるだろ? それで、実際教えてももらってるじゃん。そのおかげで俺、成績真ん中より上になったんだよ」  本当に、何が幸いするか分からない。  俺は和樹の家に行く口実に「勉強教えてもらってる」と言っている。かくしてその実態は!! エロい事してます。  おかげで俺の体は和樹の声や匂いや体温だけで期待に興奮するというとんでもない変態的進化を遂げているが、もう知るか。変態は元々だから拗らせたってもう気にしない。  けれど、流石にエロばかりじゃない。本当に最初は勉強を教えてもらっている。苦手な数学と英語を中心に、科学なんかも教えてもらっている。  和樹はクラスの中でも成績優秀でスポーツ万能、水泳部のエースでもあるハイスペック人間。こんな人が俺の彼氏なのです、神様凄い組み合わせ考えるよね。  俺の得意な顔を見て、和樹もふわっと笑って頭を撫でてくれる。 「よくやったな、亮二。偉いじゃん」 「へへっ」  同級生の男に頭を撫でられるという屈辱よりも、大好きな恋人に頭を撫でて貰える幸福にウハウハなのです。男としてのプライド? 屑籠の中ですがなにか。 「だから、クリスマスしようよ! 24日泊まりでさ」  学校は22日の金曜日が終業式だ、25日はもう休み。だから平気! 「そうだな…」  和樹は少し考えながらも、次には笑って「いいよ」と言ってくれた。  こうしてクリスマスを取り付けたのは良かった。けれど俺は重大な事を忘れていた。 「金欠だぁ」  まさに orz な状態で俺は悲鳴を上げる財布を見た。クリスマス、それは新作のゲームも狙ったように出る季節でもあるのだ。 「何情けない顔してるの、亮二。アンタさっきまで『和樹くんとクリスマス』って浮かれてたくせに」  大学生の姉貴(腐女子)が呆れた顔をしている。姉貴に俺と和樹の関係がバレてから、たまに俺の部屋に来て様子を聞くようになっている。そこまでして聞きたいのかよ、流石俺の姉貴だな。 「金がない…」 「アンタ、無駄遣いしすぎよ」 「お金ぇ。これじゃ和樹にプレゼントも買えないよぉ」  楽しみにしてたんだよ、これでも。プレゼントも選んだんだ。それには5000円は欲しい。なのに俺の財布には英世が3枚。これじゃどうしようもない。 「どうしよう…」 「バイトでもしたら?」  バイト…。そうか、バイトか! なーんだ、はは! 俺、した事ないよ。  とち狂って落ち込みながら笑う俺を見て、姉貴はよっぽど哀れに見えたんだ。きっとそうに違いない。俺を見て、ポンと手を打った。 「私がいいバイト先紹介してあげましょうか」 「下着売ったり、エロ親父ににゃんにゃんされない?」 「アンタ、どんだけアホなのよ」  だって、ぶっ飛んだ姉貴の事だからバイトもぶっ飛んでるのかと。 「私の友達のバイト先で、クリスマスまでの限定バイト欲しがってるのよ」 「何?」 「駅前のケーキ屋よ。クリスマスケーキの呼び子」 「あー、なる」  それなら納得だ。 「話しといてあげるわよ」  軽くウィンク。姉貴、本当に感謝です。 =====  そんな事で、俺は今トナカイになっている。小さな子供には絡まれ、カップルには無視される。  でも、俺も24日にはこのカップル達の仲間入りだ。俺の彼氏見てびっくり腰抜かすぜ。なんせとんでもなく格好いいんだからな! 「よーし、頑張るか!」  俺トナカイ、行きまーす!!  聖夜に向けて俺は更に張り切るのだった。

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