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交流合宿2

あー、だるい。 早く合宿終わらねぇかな。 「なぁ、お前、進藤だろ?巻中の」 話しかけてきたのは、目つきの悪いスポーツ刈りの男子。 「そうだけど……お前、誰」 何で俺の名前知ってるんだ? どこかであったことあったか? 「俺は新島(にいじま)中の桜井。中学三年の時、水泳のインハイでお前に負けたんだ」 「……覚えてねぇ」 言い方が気に食わなかったのか、桜井の顔が引き攣る。 だって本当に覚えてないんだから、仕方ない。 「俺があの時、どんだけ悔しい思いしたのか分かんねぇだろうなぁ……!お前は天才、俺は凡人……あの時、どんだけ比較されたか、てめぇには分かんねぇだろ!!」 ただ事ではなさそうな雰囲気に他の生徒が遠巻きに俺達を見ている。 「覚えてねぇもんは、覚えてねぇ。自分が負けたのを人のせいにするんじゃねぇよ」 「ふん……でも、これで決着が付けられるな……俺は水泳部に入る。進藤、お前も入るんだろ?」 「決めつけんな。入らねぇよ」 その言葉に桜井は、虚をつかれたように一瞬真顔になり、すぐに青筋を立てて騒ぎ始めた。 「入らねぇってどういうことだよ!!俺にあんな敗北を味合わせておいて、お前は勝ち逃げかよ!!」 俺の腕をつかみ、半分泣きそうな顔をして迫ってくる桜井。 うるせーな。 前々から因縁をつけてくる奴はいたけど、こんなにしつこい奴は久々だ。 「うるせぇ。てめぇのことなんか知るかよ」 「晶……!」 一触即発の雰囲気の中、聞き覚えのある声が遠巻きの生徒の中から聞こえた。 「丞……」 他の生徒の人垣をかき分け、俺の腕を掴んだ。 「何してんの?喧嘩?」 心配そうに見上げてくる丞の顔。 いつの頃も変わらない大きな瞳に俺の顔が映る。 「いや……こいつが因縁つけてきただけ。部活回るんだろ?もう行こう」 桜井と話してるのが嫌になった俺は、丞を連れて離れようとした時、「お前も思い出したぞ」と桜井は丞に近づいてきた。 「お前も水泳部に入ってた奴だろ。個人ではそこそこいい成績残してたけど、最後の団体リレーで肩故障して、総合優勝逃したんだったなぁ」 その言葉に俺の中でプツリと何かが切れた。 気づけば、俺は桜井の襟を掴みあげて床に突き飛ばしていた。 「てめぇこそ、丞があの時どんだけ苦しんだか知らねぇくせに……。お前が因縁つけてぇのは俺だろ。丞まで巻き込んでんじゃねぇよ、負け犬」 見下ろす俺の顔が恐ろしいのか、桜井の顔がみるみる青くなる。 「因縁つけんなら、いつでも相手してやる。その時はお前を二度と泳げねぇ体にしてやるから覚悟しとけよ。……丞、行こう」 「あ……うん」 呆気に取られていたのか、弱々しい声で頷く丞を連れて、部活勧誘がある南館に向かった。 様子を見に来た生徒達がさっと道を開ける。 俺のことなんか、もうほっといてくれよ。 俺は……丞がいたら…… 「晶?なぁ、晶ってば!!」 「……何だよ」 「腕!引っ張ると痛いって!」 無意識だったが、丞の腕を掴んで出てきたらしい。 「悪い……」と腕を離した。 「あんな喧嘩するなんて、晶らしくないじゃん。どうしたんだよ」 「別に……あいつがしつこかったから」 「もう……入学早々、喧嘩とか見つかったらそれこそめんどくさいじゃん。もうやめろよな」 「……うん」 「……でも、俺のこと庇ってくれたの、嬉しかったよ。ありがとう」 にこっと笑う顔が昔と変わらない。 太陽のように俺を包む笑顔がたまらなく俺は……。 「丞……」 俺は丞の肩に手を置き、体を寄せようとした。すると、丞は何かを見つけたのか、目線が俺をすり抜け、廊下の奥に注がれた。 「あーー!!あの後ろ姿は、書道部の翼くん!!」 俺の手を跳ねのけると、ダッシュでそいつの方へ行ってしまう。 いっつもそうだ。 丞は近くにいる俺よりも、ずっと遠いはずのテレビの向こう側のアイドルの方が好きなのだ。 「……チッ!」 いつもそのアイドルに負けている俺の方こそ、負け犬なのかもしれない。

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