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第2話 プロローグ

中学最後のコンクール。 俺の調子は今までにないぐらいに良かった。ミスタッチは俺の感覚では1回もなかったはずだ。 会場全体が俺の奏でる(メロディ)に飲まれていた。 思わず椅子を蹴り倒し立ち上がってしまいそうになる心をどうにか落ち着かせ、先生の方を見た。 先生も、今までにないぐらいの笑みを咲かせ頷いた。「良くやった」俺には確かにそう聞こえた。 でも、ステージを降りた俺を迎えたのは良かったでもお疲れ様でもなく、ただただ同じ音を同じように繰り返す無情で温かみがないサイレンだった。 今までで、1番調子がよかった。 今までで、1番頑張れた。 なのに、今までで1番サイアクな日になった。 先生はその日、俺のコンクールの結果を聞くことなく帰らぬ人となった。 元々体が悪かったのは知っている。 でも、どうして今日なんだ? どうしてあの時だったんだ? もう少しあとでも良かったんじゃないか? 俺は、神様を恨むことしかできなかった。 俺の音は先生のためにあった。 俺の音は全て先生に捧げていた。 俺の将来は先生みたいになる事だった。 俺の全てを支えていた人を失い、目的も理由も奪い去られ、俺に残ったのは日本一という称号だけ。 今となってはもう必要ない。 もう、目指す人もいないのだ。 俺の音はもう響かない。 誰にも届かない。届きやしない。 それに、先生以外に届いたってなんの意味もない。 俺の音はもう消えたんだ。 「ありがとう先生」俺はそう呟いて、先生に関係しているものを全てタンスの中にしまった。どうしても捨てることは出来なかった。 今までの人生は俺のものであって俺のものではなかった。 だから、これからは生きたいように生きる。 たくさんの人に才能がとか、勿体ないとかいう言葉をぶつけられた。 でも、決めたことはしょうがないのだ。俺は才能なんかなかった。生まれた時からそんなもの存在しなかった。 俺は…… 俺は、普通の人間だ。

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