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第61話

「さぁて、市村に下げたくもない頭を下げた成果をみせてやるか。おととしだったか、へその緒が首に巻きついてる羊の赤ん坊をふたりで取りあげたことがあったな。あのときと同じ共同作業だ」    準備運動、というふうに指を曲げ伸ばしする。おどけた仕種とは裏腹に、表情は恐ろしいほど真剣だ。  じんとくるとともに、ときめいた。ラウルが心の底から、おれに触れたいと願ってくれている。喜びが込みあげ、胸の小鳥が玲瓏とさえずりだす。  ぎくしゃくとだが、カイルはラウルに馬乗りになった。そして穂先が彼の顎をかすめる形になるまで、そろそろとにじり寄る。  ひと呼吸おいて膝立ちになり、細身だが、均整のとれた裸身を惜しげもなくさらした。  蜂蜜色の髪が照明を浴びて、きららかに顔を縁取るさまは花嫁のヴェールを思わせた。  ラウルはまばゆげに目を細めたものの、ためらいが先に立つのだろう。試みるようにペニスに指を伸ばし、だが届く寸前でいったん手を引っ込めて十数秒後、仕切り直しというふうに握りなおした。 「昔、子守を言いつかって、おまえのオムツを替えてやったことがある。そのときのおまえのこれはオクラに形がそっくりで、ちっぽけだった。一人前に育ったな」 「オムツにオクラ……傷つく」 「言葉の綾だ、許せ。なあ、尻はこっちだ」  尻、と呟くはしから唇がわなないても、こくんとうなずいた。カイルは向こう向きに跨るふうに姿勢を変えると、促されるまま足下の側にずれていって、ゆるゆると四つん這いになった。  谷間が丸見えだ、と意識すると恥ずかしさもひとしおだ。さもしげにひくついているかもしれない花芯は、ラウルの目にはどう映るのだろう。おぞましい、と今しも顔をしかめたのでは……? 「すべすべで、ひやっこくて陶器みたいだ」  そう言いながら双丘を(たなごころ)におさめて、粘土をこねるふうに円を描く。  ひと安心というところだが、別の心配事が頭をもたげる。 「市村先生から具体的に何を教わったの」 「内証。乞うご期待ってやつだ」  ふくみ笑いでいなされると鼓動が速まる。妙な方向に親切なあの医師は、ラウルにどんな知恵を授けてくれたのだろう。 「けど驚きだ。俺のがよく、こんなちっちゃな孔に挿入(はい)ったもんだ」    中心に指の腹があてがわれた。たちまち、羞じらうようにつぼむさまに魅せられた様子で、おじぎ草を悪戯するかのごとく繰り返しつつかれると、どうしても腰が逃げる。  すると馬銜(はみ)をかませるようにペニスに指がからみ、輪郭をなぞりあげる。  しなって、蜜をにじませる。カイルは、からくもいやらしい声を嚙み殺した。  ラウルが、憧れの存在だった幼なじみが、おれの秘部に興味を示す。夢の中の出来事のように現実味にとぼしいのに、躰は正直だ。  ぷっくりと膨らんだ乳嘴(にゅうし)はもとより、どこもかしこも触れて欲しがっている。とりわけ欲深なのは最奥で、ぐいぐいとえぐられる感覚を恋しがって、さざめく。 「おっと、大事なことを忘れてた……」  潤滑剤のチューブが枕の下から取り出されるさまが、かすみがちな視界をよぎった。物欲しげに喉が鳴り、その振動が下腹部に伝わると、仔羊のようにペニスが跳ねる。悩ましい吐息がこぼれる。 「……ふぁ……」  下絵に色を塗る要領で潤いがほどこされていく。潤滑剤の冷たさに一瞬、すぼみきった蕾に息がかかると、陽光を浴びたようにほころびはじめて、襞を解き伸ばしにかかる指にじゃれつく。 「『いきなり指を入れるのは厳禁。周囲の肉がふっくらと盛りあがるまで待つこと』」 「あ……市村先生のしゃべり方の……ん……ものまね?」 「ご名答。注意事項その一をおさらいしたところで、痛かったら言えよ」  鹿爪らしげに囁きかけてきながら、ひとひらずつ暴き、つぷり、と指を沈めた。

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