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第63話

「駄目、それ、頭、おかしい……ああ!」  涙ながらに訴えると、得たりとばかりに核を狙い撃ちにする。ひと突きされるごとに内奥がうねり、嬉々として指にまとわりつく。  ペニスのほうも濃やかに舐めしだかれて、ちょっとでも気を抜いたとたん爆ぜるのは必至。 「んん、ぁ、ああ、そこばっかり……っ!」  かれこれ二十一年におよぶつき合いだが、ベッドの中で主導権を握ったラウルは、意地悪になるのだと初めて知った。  弦楽器をかき鳴らすように指が行きつ戻りつするにつれて、ほっそりした肢体が極限まで反り返り、あるいは丸まる。  学習能力が高いのも善し悪しだ。強弱をつけて、そして焦らすように(さね)のぐるりを引っかかれるたびに、狼の牙にかじりついて射精感をやり過ごす。それが際限なく繰り返される。  陥落しろ、と迫るふうに指づかいが執拗さを増す。いつしか人差し指までが加わり、束になって内壁をこすりあげていくと、筒全体がはしゃいで始末に負えない。  カイルは頑是なく頭を打ち振り、 「無理……限界……お願いだ、限界」  できるだけ腰を引いた。もっとも指を迎えにいく形になり、身悶えする羽目に陥ったが。 「チクショー、入れてえな」  ほだされた、という体で口淫を中断すると、襞をこね回しながらぼやく。さらに、しゃにむに躰をよじって花をうがつ動きを見せる。  やるせなさが漂う光景に、胸の小鳥もほろほろと鳴く。ペニスがいくぶん萎えて、そのくせ後ろは、もっと、もっととせがむように指を貪り食らう。  淫欲の虜と化して、かつて雄渾がそそり立っていたあたりを後ろ手にまさぐった。  とはいえ樹皮状のものに覆い隠された屹立を探り当てるのは、永久凍土の下から水晶を掘り出すに等しくて、不可能に近い。  ラウルは男の象徴──言いかえれば矜持を失うという目に遭った。そう思うとにわかに瞳が翳り、すると当の本人はまじめ腐った顔で再開を告げる。 「今度は射精()すまでやめない。わかったな」 「えっ? いやだ、待って……あ、ぁあ」  根元まで頬張るだけでは飽き足らず、穂先をせせるという新手を繰り出してこられると、よがり啼きに唇がわななく。  ねちっこく吸われるかたわら、最奥を突きのめされたり、こそげられると、尻たぶの両脇がへこむ。頭の中に薄桃色の(もや)がかかって、放つ以外のことは考えられない……!  細腰が狂おしく前に後ろに揺れる。ペンダントの鎖がたわみ、狼の牙が鎖骨にぶつかる。 トドメだ、と中枢をひしがれた。道を(なら)すように二度、三度。  それは、ぎりぎりのところで持ちこたえている身には強烈にすぎる一撃だ。奔流がごうごうと押し寄せてきて、弾ける。 「あ、んん、駄目だ、んん……っ!」  本来なら淫液が弧を描いて、枕元の壁を直撃していたはず。ところが、ひと雫たりともこぼれない。  ラウルは、よちよち歩きのころから乳搾りを手伝うなかで培ってきたやり方を応用して、泡立つはしから吸いとる。 「ぁあ、ああ、飲んじゃ駄目、駄目だあ!」  力任せに頭を引きはがしたものの手遅れだ。逆に舌鼓を打つさまをまともに見てしまい、すくみあがった。いやらしい雫にまみれて唇がてらてらと光ると背筋が凍り、 「毒だ、吐いて」  お碗のように丸めた手を顎の下に添えるカイルを尻目に、ラウルはえずきながらも飲み干す。最後に唇をひと舐めすると、ふんぞり返ってこう言った。 「おまえは俺のを、俺はおまえのを飲んだ。固めの(さかずき)を交わしたみたいなものだ」  ごちそうさま、と日本式に手を合わせて締めくくると、ベッドを水平に戻した。そして、晴れ晴れとした様子で欠伸をする。  その間にカイルは洗面所に走り、洗面器を取ってきた。ラウルの口許に吸い飲みをあてがい、うわずった声を発した。 「うがいして、洗面器に吐き出して」  あっかんべ、で一蹴された。せめて指だけでも、と丹念にふき清めている間中、一連の出来事がコマ送りで瞼に浮かんで居たたまれない。  この指をがっつき放題にがっついて、おれはハレンチだ。深奥がむずかるように疼くせいで、なおのこと目のやり場に困る。

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