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第3話

「――だから僕は反対したんだ。「正義」のアルカナを呼び出すなんて。ジークに「正義」が合わないなんて、誰の目から見てもわかったことだろう。僕の言う通り、「死神」とか「悪魔」とか「塔」を召喚するのが正解だったんだ」 「召喚するのは俺だ。俺が従える使い魔は俺が決める」 「……それは、結構だけど。相性の悪いアルカナなんかを呼び出して……もしも反逆なんてされたらどうするんだ」  クラインシュタイン城には、暗雲が立ち込めていた。  ――近頃この国では、「魔術」が国民の間で広まりつつあった。しかし「魔術」は法によって禁じられた、危険な技術である。「魔術」は使えば使うほどにその者を狂気に陥れ、心を破壊していってしまう。しかし、人々はその力に魅入られて「魔術」を使う。もしもこれ以上「魔術」が広まれば、国の崩壊もあり得ない話ではないだろう。  王家クラインシュタインの第二子である、ジークフリート・クラインシュタイン。彼はクラインシュタインの魔術師の血を色濃く継いでおり、この国に蔓延する「魔術」を唯一殲滅できる力を持っていると言われている。そのため、「魔術」を使う者を狩る、所謂「魔女狩り」の役割を全て担っていた。  そんな折、ジークフリート一人では「魔女狩り」が厳しくなってきたため、一体の使い魔を召喚しようと「アルカナ」というタロットカードの大アルカナを模した使い魔を呼び出す、古代召喚魔術を展開したのだが―― 「言うことは聞かない、しかも契約が上手くできていない。相当相性が悪いってことだろう。悪いことは言わないから、違うアルカナに変えたほうがいいんじゃないか」  ――失敗した。そう、ジークフリートはアルカナの召喚に失敗したのだ。  失敗したとはいっても、アルカナを呼び出すことはできた。しかし、使い魔として不完全だったのだ。基本的に主に服従するはずなのに、反抗してくる。心が接続され、お互いの思考を読めるようになるはずなのに、その気配もない。これは、失敗といってもいいだろう――そう断言するのは、ジークフリートの兄であるシルヴィオだ。  シルヴィオは、なぜジークフリートがアルカナ召喚魔術を「失敗」したのか、なんとなく推測できていた。ジークフリートがアルカナ召喚魔術を「失敗」した理由――それは、ジークフリートが呼び出したアルカナが、ジークフリートという人間の性質にそぐわないからだろうと。  ジークフリートが呼び出したのは大アルカナ「正義」の名を冠するアルカナだ。しかし、ジークフリートはシルヴィオの目から見て正義の側に立つ人間ではない。ジークフリートの担っている「魔女狩り」――それは言い換えれば殺戮である。「魔術」を使う者を、問答無用で処刑していくのだから。国のために血を流すのだと――その想いがあったとしても、その行いは「正義」ではなく「悪」であろう――それが、シルヴィオの考えるところであった。  「悪」の人間であるジークフリートが、「正義」のアルカナを従えられるものか。シルヴィオは、召喚儀式の前からそうジークフリートに説得を試みていた。しかし、ジークフリートは頑なに「正義」のアルカナを選ぶ。その理由は、シルヴィオにはわからない。 「従わないのなら、従わせればいいのさ。俺の魔力を流し込みまくれば、嫌でも使い魔は俺に心酔するだろう。「正義」のアルカナ――俺は、絶対にあいつを従えさせる」

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