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第1話

貴方は、本当に幸せだと心から思っているのですか。 俺には、未だにそれが真実だと信じることができない。 痛みに満ちた眸をして、それでも口元だけは強気をつくり綻ばせて言った言葉が、耳元に張り付いて消えない。 『大切な者の為に尽くすことは、幸せで満足に充ちた物だと思わないか』 俺は、其の言葉を、肯定することもできず、いつでも首を横に振ることも出来ずあの時のまま立ち止まってる。 全てを犠牲にしてしまっても、それでも幸せだなんて言う言葉なんて、絶対に嘘だと思ってしまう。 貴方が、貴方の心を追い詰めた俺に、気遣ってそんなことを言ったのだと思うことが、一番自分自身を納得させることができた。 それ以外の言葉を探そうなんて、思わなかった。 例え貴方に聞いたとして、俺の言葉を否定しても、俺はやっぱり同じところで立ち止まってしまうのだ。 優し過ぎる貴方が…………哀れだ。 貴方が『許す』と言ったとしても、俺が許せないのは自分自身だから仕方がない。 もう一度、問いかけたい。 いま、貴方は、本当に幸せですか…………と。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「そりゃあ、それが本当だとしたらすげえ話だな」 机に肩肘をつき紅茶のカップを片手に、だらけた態度とは裏腹にテーブルの対面に座る男に向かい、イーグルは驚きを隠せない表情を露にした。 対面して座っているとは言っても、彼の目の前の男は3Dグラフィックの映像であり、実際にはここには実体はない。 イーグルは少し癖のある薄い金色の髪を肩まで伸ばし、端から見れば映画の若手俳優並に容姿の整った若者である。 とはいっても、すでに28歳であり見た目よりは歳を重ねている。 「まあ、今まで無いっていうのが不思議だったんだけどさ。タイムマシーン」 彼は目の前に座る自称宇宙一の科学者の手の中にある、小さな機器を興味深そうに覗きこみながら言った。 投影されている像の白衣を着た青年は、薄いサングラスをかけており、金色の綺麗な巻き髪を長く伸ばしている。 彼は、イーグルの従兄弟の従兄弟であり再従兄弟にあたる。 『そうだな。今まで無かったのには理由がある。我々科学者には有名な話なんだが、政府に開発を禁止されてるんだ。』 「禁止ねえ……って、おい。いいのか、デルファー、そんな物作って」 それまでのんびりと相槌を打っていたのだが、目を見開き表情を変えて慌てた様に科学者を見返す。 禁止されているものを開発してバレたとしたら、いくらなんでもただですむわけがない。 そう思いながら、イーグルは頭をかかえて自由すぎる科学者にはああと溜息を漏らす。 『よくはないんじゃないか。まあ、見つかれば、実刑だろうな。天才とは悲しい性分で、禁止されてても作りたいという欲求には勝てない』 さらっと、あくまでも事実だけを伝える 「勝てない…………じゃなくてさ。まあ、言っても無駄なんだろうな。で、どうしたいの?俺に話すって事は、何かあるんだろ」 不敵に笑いながら嘆いてみせる天才の態度に、次に聞かれる言葉を先読みして問いかける。 こういう場合には、イーグルはいつも貧乏くじを引かされる性分なのである。 そして、目の前にいるのは破壊の科学者とも唄われ政府からも目をつけられているマッドサイエンティスト、ドクター・デルファーその人なのだ。 『だから、イーグルに話すと話が早くて良い。勿論、私の作ったこのタイムマシンの実験台になれ』 居丈高な態度で、そのタイムマシンという小さい機器を翳して尊大に言い放つデルファーを見あげて、イーグルは頭を更に抱え込んだ。 どう見積もってもデルファーの態度は、人に物を頼む人間のものではない。 「………なれ……ってなあ。ガイちゃんは、それが人に物を頼む態度かよ。……いつも、そうやって」 『ガイちゃんとか、その名前で呼ぶな。ドクター・デルファー様と呼べと何度言ったら解るんだ』 本名はガイルというのだが、科学者デルファーを名乗って久しい。 文句を言う言葉にも、本名を呼ぶなと駄目だしをする再従兄弟にイーグルは深く肩を落とした。 親戚であり、歳も近かった為幼馴染のように育ったせいか、イーグルの性格からかこの男には逆らえなかった。 本名を名乗らず、闇の科学者として名をはせていてもそこは見知った幼馴染である。 「いいじゃねえか。エドには呼ばせてる癖に……。大体俺は便利屋さんじゃないのよ、外科医なんだ、外科医。わかる?お医者さんなんだよ」 もう一人の従兄弟には、本名を呼ばせているのに待遇の差に腹が立って唇を尖らせた。 『イーグル。口答えするとは良い度胸だ。解ってるだろうな』 従兄弟の名前を出した途端、低い声が3Dの映像の傍のスピーカーから聞こえ、ぷちんと回線の途切れる音がした。 破壊の科学者が何をまた生み出すのかと考えて、イーグルは背筋を凍らせ頭を抱えこんだ。

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