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第8話
相手方の兄、有馬宮榊(ありまのみや さかき)氏から紹介の条件が来た。
私に榊氏を抱けというものだ。
厄介な相手だと聞いていたが、まさか『α狂い』だったとは。
私は同性相手に勃つのだろうか。
童貞の私はチョロいだろうか。
だからと言って、ラットしてもしてなくてもα相手に抱かれるのは無理だ。
相手にマウント取られるなど、あってはならない。
榊氏を抱けば、私は私の望むΩに出逢えると決まっている訳ではない。
しかし、相手がΩではない同性と分かっていても脱童貞は魅力的に感じる程、私は追い込まれているのも確かなのだ。
くそッ、私はα相手に童貞を捨てるのか、どうしたらいい、教えてくれエロい人。
私は悩みに悩んだ。
私を受け容れられる番には出逢えるか分からないが、有馬宮榊氏に会って勃起させる事が出来れば、悲願である脱童貞だけでも叶うのではないかと。
だが、清いままにΩに出逢いたい気持ちもある。
これは確実ではないのは明白なのだ。
私の下半身に燻り続ける熱い情熱は、日に日に有馬宮榊氏を抱く事に傾いていく。
欲求不満が高じて、私は番いたいのか、誰かを抱きたいだけなのか、目的がすり替わっていくのを感じつつも、誘惑に身を任せてしまいたい気持ちになっていた。
男性体を想像してみる。
うん、有りだ。
α特有の生命力に溢れた逞しい身体を想像してみる。
うん、有りだ。
よし、会おう。すぐ、会おう。
私は榊氏に渡りを付け、会う日時と場所を指定する。
都市部の高級ホテルのレストランに夕刻7時。
私は脱童貞にドキドキワクワク、α用避妊具をあらゆるポケットに仕込み、胸と鼻の穴を膨らませた状態だ。
顔には出さないが、緊張と期待でいっぱいいっぱいだ。
榊氏は少し遅れてやって来た。
とても背が高く、私よりも高い。
顔も男らしく肩幅もガッチリとしている。
それに30代後半の大人の男の魅力を、これでもかと醸し出している。
仕立ての良いスーツを着て、姿勢良く立つ姿は上位ランクのαのそれだ。
この魅力溢れる男が『α狂い』なのか。
私は早々に相手の余裕のある空気に飲まれていくのを感じながら、食前酒片手に乾杯をする。
私より下位だが、上位ランクで大人の余裕まで見せてくるαの話は有意義で、私の緊張は次期に解れていった。
性的に意識してはいたが、相手が同性だけに抑えられない程の興奮は私には無い。
榊氏の瞳は色欲を覗かせ、熱のこもった視線を私に送ってくる。
やはり彼は『α狂い』で間違いないのだろう。
私達は少しの温度差を感じながらも、2人ディナーを楽しみ、レストランを後にするのであった。
迷える童貞、徳川エリック25歳α、未だ童貞。
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