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第7話

思いはそれぞれ、行動を起こした者を中心にして世の中は動き出す。 Ωコミュニティにも、若き最高位αである徳川エリック氏の本気の番探しの情報が入って来た。 何人ものΩがキャッキャと色めき立つが、対照的に冷めたΩもチラホラと散見する。 彼らは以前、徳川エリック氏と妻わせられた者達だという。 かのαに選ばれなかったのだ、冷ややかな空気も分からないでもない。 しかし最上位のΩの彼女も、選ばれなかったメンバーに入っているのは何故だ? 彼女ならばフェロモンの香りも見目の麗しさも、強い子を授かる保証も確約されているはずだ。 それだのに、番候補から早々に外れてしまっているのならば、誰ならば彼の番になれると言うのだろう。 底辺Ωの俺にはご縁が無いのだ、追及したところで意味が無い。 Ωコミュニティは2週に一度の集まりだが、俺は惰性で来ているに過ぎない状態だ。 俺に紹介が来るのは稀で、富裕層だが底辺αと呼ばれている者達だ。 富裕層に底辺は少ないから、紹介も必然的に少ない。 それに『会う価値のないΩ』と後ろ指指されるようになってからは、αを紹介してくれるのはΩ嫌いの兄だけになってしまった。 コミュニティから紹介されたα達よりもかなり上位のαばかりだったが、どうしても番や妊娠に結び付かず、発情期の途中で逃げ出されてしまうのも変わらない。 何故こうも婚活が上手く行かないのだろう。 縁が無いと分かっていても、徳川エリック氏に俺も会ってみたい。 コミュニティに見合いの申請を出してみようか。 これまでも何度か見合いの申請をしてみたが、だいたい握り潰されるか底辺αの紹介だった。 底辺Ωが余計な事をするなと言わんばかりに、β職員に白い目で見られてしまうのが関の山か。 だが、俺の番は彼らの目測だけで決められるものではないはず。 俺は勇気を出して申請しなければ、最長老記録を更新し続ける未来しか見えない。 希望は捨てられるかもしれないが、それでも自分を売り込まないと、俺は不甲斐ないΩのままだ。 俺は大きく息を吐いて、職員から相手指定用の見合い申請書を一枚貰う。 相手の指名欄に『徳川エリック』と書き込んで、色めき立つΩに混ざって申請書を提出するべく列に並ぶ。 俺が列に並ぶと周りがザワザワと落ち着かない。 見合い申請の列に俺が並ぶ事は、今ではもう珍しい行動なのだ。 表立って何か言われる事は無いが、『高望みしてバカみたい』と言わんばかりの視線を感じる。 正直、この視線が俺は怖くて仕方ない。 しかし、一言でも返そうものならば、俺が問題を起こしたと見られるのも知ってしまっている。 俺の見た目が怖いのは、成長期を過ぎてから自覚している。 怖くても嫌でも反撃してはいけないのだ。 俺は内心ビクビクしながらも、相手指定見合い申請書の提出を済ませた。 相手指定の場合は順番は後に回されるだろうが、相手に番が出来ない限り廃棄されないだろう。 運命を変えたくて時流に乗ってみる28歳Ω、男性。

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