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第10話

ウィンチェスター・撫子(なでしこ)女史が食い入るように見ているΩコミュニティの資料が気になるなぁ。 一枚だけを穴が空く程見つめているんだ。 彼女だけのΩが見つかったのだろうか? どんな子だろうか、私も見てみたいな。 そう思いながら、私は次々と資料を捌いていく。 ダメだ、私の方の資料には条件に当てはまるようなΩは見当たらない。 私は撫子さんの持つ資料の上部を摘み、彼女の手から奪い去る。 資料には有馬宮日榊(ありまのみや ひさかき)28歳男性身長221cm体重98kg、妊娠可能と記載されている。 写真の彼はとても男らしく凛々しい顔立ちをしており、背が高くスタイルも良い。 写真だけでΩと記載が無ければαだと思うような容姿だ。 Ωにもこんな子が居たのかと感嘆のため息が漏れる。 撫子さんなんか、資料取られた事にも気付かないで固まってしまっている程だ。 日榊君ならば、エリックや撫子さん、私が相手でも受け入れられるかもしれない。 私は彼の番候補にいつの間にか、自分を組み込んでしまっていた。 枯れていた自分自身の為の情熱が、歓喜と共に湧き上がってくるのを感じる。 私と撫子さんは立ち上がり、相手指定の見合い申請書を提出する。 相手はもちろん日榊君だ。 エリックだけ、彼と会えるのはズルいと思わないかい? 私達が資料から探し出したのだから、日榊君と会う権利はあると言えるだろう。 ふふっ、今日は良い日だね、全く。 そういえば、今日はエリックを見掛けていないね。 彼もΩ探しに奔走しているから、コミュニティ外のΩと妻わせて貰っているのかもしれないね。 日榊君の資料をスマホのカメラで写して、メッセージアプリからエリックへ送信しておこうか。 彼の為に始めた事でもあるし、彼に見合い申請も来ているのだから、教えないわけにはいかないね。 私の童貞は日榊君に貰ってもらえるだろうか。 ああ、彼なら受け容れられると本能が言っている。 きっと撫子さんの頭の中も同じなのだろう。 私達は幸運かもしれない。 もう此処には居ない、年配の最上位のαは終ぞ童貞のまま去っていったのだから。 それにしても彼は何故、その存在を我々に秘匿されてきたのだろうね。 これまでの指定無し見合いの相手も悪意を感じる程に低ランクαばかりだ。 職員のβの仕業だろうね。 彼らは私達が番を見分けるのとは違う方法で選別するから。 彼らは自分達の好みの見た目をしたΩを、相手指定ではない見合いの時に推してくる。 αとΩの関係を一切理解し切れていないのだ。 まあ、それは仕方のない事だけれども、勝手に好みで選別するのは止して欲しいところだ。 彼らを責めても無理なのは分かっているので言いやしない。 何はともあれ、エリックが本腰を入れたお陰で日榊君の存在を知れたわけだ。 彼との席を楽しめる日を待とう。 初恋に湧く59歳、島津久彬氏男性α独身、未だ童貞。

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