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第一章 ビルの屋上

【第一章 出会】 午後六時 高いビルの屋上から俺は下を見据えた。帰宅ラッシュの時間の為か、多くの車や人が小さな点となって動き回っている。 「はぁ…。」 俺はため息をついた。こんなにも上から他人の日常を見たことがなかった。携帯を見ながら歩いている人、友人と話しながら歩いている人、会社の同僚と上司の愚痴を言う人、電話している人、走っている人。もちろん俺の推測に過ぎない。地上に行けば、本当は違うのかもしれない。 「バカみたい。」 ぽつりと俺の口から出たその言葉は、自分に対してか、今見ている光景に対してなのかは分からない。けれど、もうそんな言葉は関係ない。どうだっていい。もうこの世界とはおさらばするんだから。 未練など何もない。別に生きるのが辛いくらい嫌な思いをしているわけでも、苦しんでいるわけでもない。ただ、ほんの少し疲れただけ。けれど、いざ、この場所に立つと足が震え、下を見据えると、柵を持つ手に力が入る。かなり日が暮れてきた。今更ながらに沈んでいく夕日を見て涙が出た。…ほんと、バカみたい。

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