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第4話

「あの、ここは…。俺の事、ここまで運んでくれたんですか?」 相手方の問いかけにも答えず、自分が気になったことばかりを問いかけてしまう。相手が怖い方だということはとっくに察しがついている。まぁ、ここで殺されるにしろ、自分で死ぬにしろ同じようなもんだ。 「ああ、俺の事務所だ。飛び出してきたお前さんと接触したが、そこまで大きな音は出ていないから骨折はしてねぇだろう。骨折してねぇのは分かってたから病院じゃなく此方に連れてきた。これで満足か?自殺未遂の兄ちゃん」 丁寧に説明された挙句、最後に言われた言葉には多少の悪意が滲む。しかしあながち嘘ではないから言い返すことはしない。何も言えず下を俯いてしまった。 それにしてもこの人、やはりヤクザだろうか。黒いスーツに黒いシャツ。襟元は緩くはだけている。ドアのそばには派手なシャツを着た男が二人立っている。映画などで見る風景とそっくりなのだ。何より、いかにも強面という言葉が似合う顔。無駄な肉はついていないが、骨ばかりでもない。少々引き締まった筋肉質な体はスーツ越しでも確認できる。 見れば見るほど、その人の特徴が見えてくる。 「…兄ちゃん、俺になにかついてるか?」 ついつい相手を眺めることに夢中になってしまっていたようで、頭上から掛けられた声にはっと顔を上げる。先程からずっと無表情な多分ヤクザさんが不思議そうに俺を見つめる。 「あ、すみません。昔から人を眺めるのがくせで…」 つい出てしまった言葉にも自分は何を言っているのだ、と戒めをかけたくなる。こんな気持ち悪い癖、初対面の相手なんか引くに決まっている。ああ、俺はなんてことを言ってしまったんだ。 「…は、兄ちゃんおもしれぇな」 引かれるかと思い頭をひねらせていたところで聞こえてきた笑い声。突然のことに驚き、思わず其方に顔を向けてしまう。

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