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第3話

元恋人とよく歩いた散歩道。夜でも数台の車が通っている。ここなら大して大きな事故としても取り上げられないだろうから、一番最適な場所だろう。お前と何度も歩いた道だ。お前が家からバイト先に行くまでの通り道。この事故の報告があってからは、ここを通る度に思い出すだろう。お前が俺を振ったのが原因で自殺したんだ。お前だってそれくらい分かるだろう? 視界の先に曲がってくる車のライトが見えた。ここで人生の幕閉じだ。もう生きていく気力を無くした。父さん、母さん、今からそっちに向かうから。なんて、最後くらい綺麗事で締めくくろう。 前からきた車はいい感じにスピードが出ている。これなら、いける。 もう最後の方は無意識でもあった。スピードの出ている車に飛び込んだ。最後に耳に残ったのは、大きく響くクラクションとブレーキ音だった。 「…ん。ここは…?」 俺はさっき死んだはずじゃ。まさか助かったとでも言うのか。こんな漫画みたいな展開、俺は望んでいない。やるんならせめて天国とかにしてくれよ。こんな世界、未練なんてないから。死ぬためだったのに。俺の勇気はどこへ。決意はどこへ。労力の無駄遣いだ。 それにしてもここはどこだろうか。自分の部屋ではない。病院でもない。体全身が痛むが、骨折という程の痛みは今のところ感じない。まさか直前に車が速度を落としたのか、打撲だけで済んだようだ。こんなの、死ぬにも程遠い。 どこかも知らない部屋で大きくため息をついていると、突然扉が開いた。いきなりのことで思わず後ずさるが体が痛くて思うように体が動かない。 「おお、起きたか。体の調子はどうだ」 現れたのは歳四十前後ほどの、とても一般人とは言えない風格の男だった。

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