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第10話

「じゃあね、フレインさん。弟さんに捨てられないようにしなよ」  そのまま家に駆け戻った。戦利品のボタンは部屋の引き出しの奥にしまうことにした。 (生きてる間には叶わなかった……か)  自分の想いまでそうなるとは限らない。けれど、このボタンを見る度に思い出すことになるのだろう。  不思議な魅力を持った男性のことを。ひたすら優しく、それでいて強烈な印象を残してくれたあの人のことを。 ◆◆◆ 「ただいま、アクセル」  ヴァルハラの自宅に戻った途端、可愛い弟がすっ飛んで来た。 「兄上、どこに行ってたんだ? 何も言わずに出て行かれたら心配するじゃないか」 「ごめんごめん。ちょっと下界に降りてたんだ」 「……下界に? なんでまた……」  訝しげな弟が、ジャケットの前を見て更に怪訝な顔をした。 「兄上、ボタンが取れてる。つけ直さないと」 「ああ、じゃあお願いしてもいい? そういう細かい作業、得意じゃなくて」 「かまわないが……これ、誰かに引き千切られたんじゃないか? 兄上、もしや下界で何か変なことに巻き込まれたんじゃ」 「いやいや。偶然出会った男の子が、どーしても欲しいって言うからあげただけだよ」 「……男の子?」 「うん、とっても可愛い子でね。名前は……何だっけな。忘れちゃった」 「……そうか。まあ、そのくらいの相手なら俺が心配することないな」  そう言ってアクセルは、引き出しから裁縫箱を取り出した。  弟が新しいボタンを縫い付けてくれるのを見ながら、フレインは自分とよく似た美少年の幸福を願った。  ただ、名前はド忘れしてしまったけれど。 【to be continued...?】

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