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第10話 独り占め 3

 今年の春に中学校に上がってしまった鷹くんとの距離は、小学校の頃に同じ校舎の中にいた時よりも更に離れてしまった。 「僕より友達とか許せない」  メールしたって気まぐれだから返ってくるのは五回に一回くらいだし、電話なんてしても鳴っていることにすら気づかない。一度なんのための携帯電話だと文句を言ったが、笑って「悪い悪い」と心のこもっていない謝罪を受けただけで終わった。  両手で持った教科書を開きながらごろりと床に寝転がると、僕は退屈を紛らわすためにパラパラとページを捲りながら、書かれている内容を音読していく。一昨日これを開きながら宿題をしていた鷹くんはわからないと頭を抱えていたけれど、よく読めばさして難しくない。普段僕が学校で習っている算数に比べたら、こちらのほうがずっと面白い。 「取りに来ないかな、来るわけないか」  自分で言ってて虚しくなってくる。そして教科書を抱えて床をゴロゴロと転がってしまう。そしてふと母がよく昔から僕に向ける言葉を思い出した。  物心ついた頃からなにかと後ろをついて歩く僕に「臣くんは鷹志くんが本当に好きね」と笑って言うのだ。けれどそれを聞くたびなんだかそうではないのだと言いたくなる。鷹くんのことは好きだけれど、それはそこら辺に転がっている好きとは違う。僕の好きはもっと特別な好きだ。 「ずっと傍にいたいし、触れていたいし……キスもしたい」  キラキラと光る金茶色の髪に猫のような薄茶色い瞳。少し小柄で身体は同年代の奴らよりも細いけど、抱きついた時に女の子みたいな柔らかさはなく、それがますますいい。女の子には正直興味が湧かない。クラスで誰が好きだとか可愛いだとか騒いでいるのを見ても、なんとなく白けた気持ちになるし、好きだと言われても、僕の心は一ミリも動かない。  ずっと気がついたら鷹くんしか見えていなくて、いつも僕は彼の背中だけを追いかけていた。けれど手が届かなくて、焦れったい気分になる。

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