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第35話 独占的 4-6

 しわが寄ったそれを鷹くんに手渡せば、少し目がキラキラとする。 「僕、やりたいこととか正直なかったし、鷹くんのためなら頑張れるよ」  名刺を見つめたまま動かない鷹くんに首を傾げると、なぜか途端に顔が険しくなった。その変化をじっと見つめていたら、床に名刺を置いて険しい顔のまま僕を見上げてくる。 「仕事にするってことは、自分が納得できないことも、嫌なこともやらなきゃいけないんだぞ」 「いまだってやりたくないことも納得いかないこともあるよ」 「いまよりもっとだ」 「でもそれが鷹くんのためになるなら、いくらでも我慢できる。僕がそういう人間だって鷹くんが一番知ってるでしょ? それにやるならちゃんとしたい。って言うか、鷹くんが心配してるの本当にそこ?」  至極真面目なことを言っているのはよくわかるし、もっともだとは思う。だけど僕を見つめてくる顔にはそれとは違うことが書いてある。疑い深げで心配するような眼差し。見せびらかしたいけど、見せびらかしたくはない。多分そういうことなんだろう。 「僕はどんな場所にいたって、どんなことをしたって、鷹くん一筋なんだけどな」 「そ、それはわかってる」 「じゃあ、頑張れって言ってよ。お前なら出来るって言って。そうしたら鷹くんのためだけに頑張るから」 「……お、お前は、和臣は、俺のもんだ。それだけは忘れんな!」  口を引き結んでキッと僕を睨んだかと思えば、耳まで赤くしながらひどく甘い言葉を放つ。そのちぐはぐな顔と言葉に情けないくらいに口元がにやけてしまう。 「うん、僕は鷹くんだけのものだよ」  両腕に愛おしい人を抱きしめて、僕は久しぶりに声を上げて笑った。  僕と鷹くんの二つの独占欲。それは少し依存性が高いけれど、それでも心が満たされるほど甘やかだ。その甘さにがんじがらめになっても、きっとそこからは抜け出せない。だけどそれがなによりも幸せだと僕は思う。 独占的/end

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