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第1話
―ジリリリ…―
朝、頭に響く目覚ましの音が地獄の始まりを知らせた。
モソモソとベットから起き上がるとまず初めに端末の電源を入れて通知を確認。
無料通話アプリの通知が何件か来ていたので後から返信することにして。どうせ急ぎではないからゆっくりで構わない。
「あら、お早う」
「ん。はよ」
リビングに向かうと現在進行形で朝食を食べている母。
その隣で俺は棚から取り出したコップに机におかれていた水を汲んでそれを流し込んだ。
胃が弱いのか起きてすぐに食べたら戻してしまうので朝食は普段食べない。母もそれを分かっているから俺の朝食を作ることはない。
「今日私帰るの遅いから、悪いけどお金渡すからお弁当買って食べてくれない?後、もしかしたらお父さんの方が帰ってくるの早いかもしれないからお風呂も早めに入って頂戴」
「嗚呼、分かった」
母の言うことに頷きながらも心の中では不快感を覚える。
こんな身内とのさり気無いやり取りも五月蝿く感じてしまう。母は耳が遠いというわけでもなく、ただ単に声が大きいだけという訳でもないのに、とても大きく、まるで騒音のように聞こえるのだ。キンキンキンキン俺の頭の中で音が暴れまわる感覚だった。
それは苦痛でしかないのだけれど、そう思っていることを母に悟らせたくなくそれを表に出さないよう意識して、母に笑いかけた。
「夏樹、学校はどう?」
制服に着替えていると小学生に聞くような事を母に聞かれた。
夏樹とは俺の名前で、因みに本名は環澄 夏樹である。
高校生である自分に母がこんなことを聞くのは俺の"容姿"のせい。これのせいで昔色々あってから母は凄く俺の学校生活、主に人間関係を気にかけるようになった。
「…そこは問題ないよ。ちゃんと"隠してる"じゃん」
「…そう。無理になったら早く言ってね?」
「嗚呼」
母は優しい人だ。
父もがさつな人だが母に劣らず優しい心の持ち主で、俺はこの2人の間に産まれて恵まれているんだと思う。
だからこそ、俺の"異常"を言えないでいた。話せばきっと2人は"これ"を治すために無理をしてでも時間を作ろうとするだろうから。これ以上迷惑や、苦労をかけたくなかった。
そんな日々が続き、俺は異常を感じ出してからおよそ5年間程、2人を騙して過ごしてきた。
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