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第2話
俺は片道40分弱かかる高校へ通っている。そのくらいならまぁ、極々普通の通学時間だし、電車は使っているものの歩いている時間が長いだけで、言うほど遠くはないので不便はしていない。ただ、問題はその学校の方だ。そこに通う自分もどうかと思うが、そこは世間的には不良校と呼ばれるところである。
通ってる自分が言うのもあれだが、こんなところ行くつもりはなかった。なのに実際そこに通っている訳だが、それは誰も求めていない少女漫画みたいな理由からだと言い訳をさせて欲しい。その理由と言うのが受験シーズンにインフルエンザにかかってここしか受けられなかった……だなんて、人生の中で首位を争える位には運がない出来事だったと言っても過言ではない。
けれど、真面目な高校と比べて利点もある。デメリットの方がそりゃあ何倍も多いけど。不良校というお陰で、服装検査なんてもの存在しない。騒音から逃れるための必需品であるヘッドフォンをずっとつけていられるし、色々とあって左目につけている眼帯にも誰も触れてこない。厨二病かと見られている可能性はなきにしもあらずだが、普通の学校にいけば100%指摘されるものを何も言われずつけていられるのは正直に言ってとても助かる。
だがまぁ、二度目だけどそれ以上のデメリットが存在するわけで。プラマイゼロどころかマイナスのドン底だ。
勉強全然してない馬鹿校のイメージをもたれているだろうけど、別に勉強はできないこともないからその点は気にしていない。…最悪なのは『環境』の方。喧嘩なんて当たり前だし、聞くにここの生徒が中心の族があったりなかったり。それに、ここのトップには逆らってはいけないとか。最後の、謎のカースト制にはここは昭和かと突っ込みたくなる。
兎に角、不良校にありがちな事ばっかだけど、俺にとってここは異国――否、国どころか時空すら違っていて面倒なことこの上ないのだ。
入学して半年が経った今、奇跡的に誰にも絡まれてないのは不幸中の幸いかもしれない。…が、いつ絡まれても可笑しくない学校だ。気は抜けない。否、油断していようがしていまいが絡まれるときは絡まれるんですけどね。
そんな糞みたいな学校に通う俺の心の救いと言えば、顔も知らぬ人との無料通話・トークアプリでのやり取り。相手のハンドルネームは 『AOTO』。
きっかけは某オンラインゲーム。それで意気投合し、現在は話さない日はないほどの仲となった。向こうがどんなにデブで禿げたおっさんであっても心の支えとなっているのには変わらない。あ、これ容姿決めつけてる?違ってたらごめんなさい。
学校に行く途中、そう言えば、と朝通知がきていたことを思い出し開いてみたら全部その人からのものだった。
『夏くん見て』
『やばくない?これ』
『周回終わった』
『俺凄くない?』
文字と共に送られた、周回が終わったことを証明するスクリーンショット。もしここが外でなければ、俺は驚きのあまり叫んでいただろう。何故なら終わるのが"早すぎる"から。
俺とアオトさんがしているゲームのイベント期間は大体毎回三週間。そのイベントを二週間せぬ間に終わらせるだなんて。
三週間分の周回回数があると思えばそれがどれだけ驚異的な数字であるかは優に想像できるだろう。この人は大体イベントを回りきるのに要する時間は二週間だが、平均3日余裕をもって終わらせる俺はこの報告に毎回驚かされる。特に、終わりが見えないマゾイベントの時なんかは。一体この人のどこにここまでゲームに費やせる時間があるのだろうという疑問すら生じてくる。
『エグ』
『今回鬼畜じゃない?素材全然集まんないんだけど』
歩きながら彼に返信すると、ものの数秒で既読がついた。送られてきたのは昨日の夜だと言うのに何という反応の早さ。否、あんたマジで常に端末開いてんの?常に液晶眺めてるの?
『気合いと根性で周回』
『後は魔法のカードで特攻積みまくろうヘ(゚∀゚ヘ)』
世間でそれは廃課金勢の思考回路と言う。そうなんだよなぁ、この人新装備すぐに手に入れてるし、常にイベント特攻装備つけてるし。どう考えても課金しまくりじゃん。お陰で俺も助かってるけどこの人一体月にいくら課金してるんだろう。
『俺無課金なんでちょっと無理ですね』
『スタミナ回復で精一杯です』
『あれでも、前有償福袋引いてなかった?』
『俺のは"無理のない"課金なんです。アオトさんは廃課金者』
『んへぇ……手厳しい』
そりゃあ確かに俺も課金は時々するけれど、彼と比べたら微々たるもので、年数千円程度だ。あんたの場合は何万何十万と注ぎ込んでんだろ絶対。その金額は考えたくない。まぁ、あれだ。良いんだ俺は。アオトさんの垢がフレンドにあることで俺が課金しなくても幾らかイベントの回りは良いしパーティ編成は努力の賜物で雑魚ではない。寧ろランキングでは上位に入る方だし。課金しないからと言って別に困っては、ない。
『そんなことよりも夏くん』
『協力クエスト来てくれない?』
『素材が欲しい。゚+.ォネガ―(´人・ω・`)―ィ。゚+』
『難易度的に夏くんいないと厳しいや』
課金問題は『そんなこと』で片され、クエストの協力を要請された。この人にとってはそのクエストが何よりも今大事なんだろうけど、俺が今周回してるのはイベントなんだよなぁ……。先この人周回終わってないの聞いてたよな??
否、この人の言い分は分かるには分かるんだけど。つまり他のやつとクエストに飛んでも負けるってことなんでしょ。1人でやったら?とも思ったけど本来複数人でやるクエストを一人でクリア、なんてチートだよなぁ。しかも今やってる協力クエストでこの人が欲しそうな素材ドロップするとこ難易度糞難じゃなかったか。あのクエストで落ちるやつ俺も欲しいんだよなぁ……。正直俺もアオトさんが協力してくれるなら、凄ぇ助かる。でも流石に登校中高難易度クエストをプレイできるほどの戦力的余裕は俺にはない。
――って、断ろうとしたんだけどなぁ。
いつの間にか目の前には正門。いかにも馬鹿してますって感じに落書きされてる壁。柄の悪い連中のせいで正門から中の空気がよどんで見えるのは決して見間違いではないと思う。毎日毎日この門を潜る俺も頑張っていると思う。瘴気に当てられに行ってるようなもんじゃん。誰か褒めて。
文句を言って登校ぐずったって後で出席日数足りなくなってドロップアウトするのは俺の方だ。仕方がないから絡まれないように存在感を消して、どういう訳か時空の捻れが生じている場所に足を踏み入れた。
『良いですよ。スタミナはアオトさん持ちでお願いします』
やっぱりどこか空気が重たい――て言うか汚染されてるのを感じながら、素材という物欲には抗えずアオトさんの誘いに頷いた。
『夏くん大好き!!』
『。゚+.(*`・∀・´*)゚+.゚』
この空間にいるせいで憂鬱になっていっているような気がしてならなかったが、この人が送ってきた顔文字のお陰でなんとか今日も持てそうな気がしてきた。
―まぁ、相手がデブで禿げたおっさんだと思うと、この顔文字使ってるのって完全に釣りだよなぁ―
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