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第4話

 特にきまりというわけではないが、俺と南波がセックスするときはベッドの上で抱きしめ合うところから始まることが多い。高校時代、南波が精神的に参っていて体調を崩した時に、保健室でこうして俺が抱きしめてあげたことを、南波は今でも忘れられないらしい。南波はこうすると、あの頃のように安心しきった顔をして俺に体を委ねてくる。 「伊勢くん」 「ん?」 「今日、あったかいね」 「ん……そうだな」 「二人でお休みの日に、よく晴れてよかった……」  抱きしめた南波の体が、熱い。何気ない会話をしているようで、もう南波はスイッチがはいっているようだ。髪の毛の隙間から見える耳が赤く染まっていて、呼吸もほんのりと荒い。蒸気した肌のせいか、服が纏う柔軟剤の香りが強く漂い始める。  南波が顔をあげて、そっと口付けてきた。そして、すぐに舌をとろりと滑り込ませてくる。  南波はディープキスが好きらしい。「初めて伊勢くんに教えてもらったエッチなことだった」みたいなことを以前言っていたような気がする。待て、もできないようで、南波は唇を重ねるとすぐに舌をいれてくる。 「ん……」  俺も舌をゆるく動かして南波の舌と絡めると、俺の背に回された南波の腕に力がこもる。熱くて、蕩けそうな南波の舌がとろとろと俺の舌と絡み合って、心地よい。 「あ……」  唇を放すと、南波がうっとりとした目で俺を見つめてきた。普段とのギャップがすごいので、この目にすごくドキドキしてしまう。まだ足りないのか唇をもにもにと動かしていて、可愛い。 「あのね、伊勢くん」 「なに?」 「……今日、」  けれど、南波はキスを我慢するようにぎゅっと唇を噛むと、ぼふっと俺の胸元に顔を埋めてしまった。先ほどよりも耳が赤くなっていて、南波から漂ってくる甘い匂いが強くなる。 「……このまえの……したい、な……」 「この前?」 「この前、伊勢くんが……してくれた、やつ……」 「……どれ?」 「ん……だから、……その、」  南波はぐりぐりと頭を俺の鎖骨に押しつけてきて、もじもじとしている。  この前、と言われてもすぐに浮かんでこなかった。手足を縛ったやつ? かるくお尻を叩いたやつ? いやらしい言葉を言わせたやつ? どれのことを指しているのか、ピンとこない。 「……あ、もしかしておもちゃ?」 「……」  そういえば、最近大人のおもちゃというものを南波に使ったことがあったな、と思い出して試しに言ってみる。でもあれは、最中は感じていたみたいだが、終わった後に南波が少し拗ねていたので、もうしない方がいいと思っていた。  しかし、南波は小さく頷いた。よく見ないとわからないくらいに、かすかに首を動かして。 「あれ? ……善かった? アレ。てっきり嫌だったのかなって思ったけど」 「……」 「南波?」  南波がいやがるプレイを強いるつもりはないので確認してみたが、南波は答えてくれない。俺の体に巻き付けた腕に力を込めるだけで、返事をしてくれなかった。けれど、南波は嫌なら嫌と言ってくるので、たぶんおもちゃを使って欲しいのだろう。 「待ってな、今持ってくるから。俺の部屋にしまっちゃったんだよね、あれ――」 「……伊勢くん……」 「ん?」  封印してしまったおもちゃを持ってくるべく体を起こそうとすると、南波がきゅっと俺の腕を掴んでくる。やっぱり違ったのか、と思ったが、そうではないらしい。 「……伊勢くん、……伊勢くんは、……道具で感じてる僕を見て、悪い子って思わない?」 「?」  南波がちらりと髪の毛の隙間から俺を見て、ぼそぼそと尋ねてきた。その目が不安そうだったので、俺は「えっ」と声に出しそうになる。何を答えればいいのか、わからなかった。 「僕の体は伊勢くんのものなのに、……道具で感じちゃうのって……だめなことじゃないの?」 「……もしかしてこの前拗ねたのって、おもちゃを使われたのが嫌だったんじゃなくて、おもちゃで感じた自分が嫌だったの?」 「拗ねてないっ」  マジか――とびっくりすると同時に納得もした。  南波は昔からそういう奴だ。ものすごく生真面目で、ものすごく一途で。その性格がまさかこういう方向にくるとは思わなかったけれど、ちょっとグッとくるものもあったので最終的には「可愛い」という感想を抱いてしまう。  要するに南波は、おもちゃを使われると感じてしまうけれど、それは一種の浮気になるんじゃないか、と言っているのだ。 「俺以外に触られてイくの、嫌なの?」 「嫌っていうか……悪いことなのかなって思うと不安っていうか……」 「……え、ごめん、聞いていい? 南波ってオナニーしないの?」 「え、しないよ! 伊勢くんに抱いてもらえれば十分だし、そういういやらしいことは伊勢くんに触ってもらうときしかやっちゃだめだよ……」 「……俺のこと考えながらするとかは?」 「だっ……だめだよ、そんな……伊勢くんの許可なしに……」 「……いいよ、俺のこと考えながらオナニーして」 「……、で、でも、いやらしいことは伊勢くんのことが好きだからするものだから、ひとりでするなんて、……わ、悪いことでしょ?」  ……なるほど、南波的ロジカル。全てをロジックで考える南波らしい発想だ。俺たちはなかなか時間が合わないからシたい時にすぐできるわけじゃないのに、そんなことを考えてオナニーを我慢してくれていたなんて、少し感動してしまう。  でも、そんな南波でもおもちゃを使われるのは、ちゃんと気持ちいいみたいだ。気持ちいいからもう一度してほしいとおねだりしてきたのだから。あとは俺がどう窘めるかということだけだ。 「うん、わかったよ南波の気持ちは。大丈夫、おもちゃで気持ちよくなるのは悪いことじゃないから、今日もおもちゃ使って気持ちよくなろうな」 「……、うん……」  頭を撫でてやると、南波はほっとしたように俺を見つめてくる。「待ってて」と言って抱きしめると、南波はこくっと頷いてくれた。

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