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第1話

数ヶ月間で、急に始まったストーカー行為。 夜中に鳴りっぱなしの無言電話のせいで睡眠はろくに取れていない。そのせいで目の下には立派なクマが。 ポストには毎日、気持ちの悪い手紙がぎっしり詰まっている。内容は『好き』だの『愛してる』だのそんな文字が便箋に、しかもご丁寧に 手書きで書かれているのだ。 そして最近、特に悩んでいるのが……。 「また……」 会社帰りの暗い夜道を、後ろから誰かが着いてくる気配。初めは偶然だと思っていたが、これが毎日ともなるとさすがに怖くなる。 街灯が殆どない暗い細道は、襲われたらそれで終わりだろう。きっと誰も助けてくれない。と言うか、誰も気付かないと思う。 そう、今のこの場所はとても危険だと言うこと。とにかく早く家に着きたい!という一心で小走りで細道を駆け抜ける。 俺が走るとやはり、後ろの人物は追いかけるように走って着いてくる。そろそろ引越した方が良さそうだ。 ようやく俺の住むアパートに着き、ある違和感を覚える。 俺の部屋の電気が付いている。 今朝、消し忘れたっけ……?いや、朝は電気を付けないから……。だとしたら……。 相変わらず俺の部屋番号の郵便受けは、手紙で溢れて地面にまで落ちている。 ゴミになるからと思い、拾うと手紙がベタついている。まだ温かい、その白っぽいネバネバとした液体。 触った途端、顔が真っ青になったのが分かる。全身の血の気が引いて、頭がクラクラする。 慌てて持っていたティッシュで手を拭いたが、こんなの気休めに過ぎない。 倒れかけたその時、ピリリリリと鞄に入れてあったスマホが鳴り、びっくりして心臓が一回転した気がした。知らない番号からだが、震える手でスワイプする。 「は……はい、」 『……見てるよ』 「……!」 『ずっと、見てるよ』 心臓がドクン、と大きく脈打つ。 部屋の明かりがつく、俺の部屋に目を向ければ、知らない男性がこちらを見て手を振っていた。 ガンッとスマホを地面に投げつけ、一目散に走り出した。 怖い、怖い、助けて! 顔面蒼白、怖さで足が震えて上手く走れず、躓きながらも真夜中の道を駆ける。 「あっ!」 「うわっ」 涙で前が見えず、いきなり何かと衝突した。「何か」ではない。確実に人だ。 「大丈夫? すごいスピードでぶつかったけれど……」 「ごめ、……、ごめん、なさ……」 「あ、え?泣いてるの?どこか打った?」 みっともなく泣きながら謝る俺に、男性は慌てた様子で背中をポンポンと叩いて落ち着かせてくれる。 あの恐怖から、優しい男性に会い安心したからか、涙が止まることはなかった。

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