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【番外編】押し売りにご用心。
コンコン…と、小さく窓を叩く音に設楽尊(したらみこと)は閉じていた目をゆっくりと開いた。深夜。病院の駐車場でのことだ。
窓越しに真面目そうな見知った顔を認め、倒していたシートを起こした設楽はドアを少しだけ開ける。相手が僅かに身を引いたのを確認して、設楽は運転席から降り立った。
何度か顔を見た事がある男は、確か名を真崎(まさき)と言ったはずだ。下の名前を設楽は知らなかった。そもそも匡成の側近である設楽と、雪人の私設秘書である真崎に接点はない。
「お疲れ様です、設楽様」
柔らかな声とともに差し出された真崎の手には、缶コーヒーが一本乗っていた。
「どうも」
不愛想に言いながら受け取れば、真崎がにこりと微笑んだ。閉めたドアにもたれ掛かり、設楽は十五センチほど下にある真崎の顔を見下ろした。綺麗な顔だと、そう思う。とは言えど、女性らしいとか、そういう意味ではない。どちらかと言えば真崎は、男らしい整った顔だと思う。
「親父からの言伝(ことづて)か何かか」
「いえ。そういう訳では…。ですが、今日はもう大丈夫だと思います。雪人様に付き添うと、そう仰っていました」
「そうか」
設楽が返事をしても、真崎にその場を動く気配はなかった。まあいいかと、貰ったコーヒーのプルタブを片手で開けて口をつける。
「お腹が、空きましたね」
「ああ?」
「設楽様は、夕食は召し上がりましたか?」
「いや?」
だからどうしたというような顔で設楽が見ている目の前で、真崎が微笑んだ。
「よろしければ、これからお食事でも如何です?」
「こんな時間にか」
「こういった仕事をしていますと、どうしても不規則になってしまいますね。それとも、設楽様は深夜は召し上がらない?」
躰の大きな設楽が健康に気を遣っているとでも思ったのか、首を傾げてみせる真崎に苦笑が漏れる。
「別に気にしてる訳じゃねぇがな」
「では、お付き合い頂けると嬉しいのですが。一人で食事をするのはどうも味気がないもので」
本音なのかただの口実なのかはわからないが、言われてみれば設楽も確かに腹は減っていた。
「付き合うのは構わねぇが、すぐに戻って来れる場所までだ」
「もちろんです。どちらにせよ、設楽様に連絡が入った時点でわたくしも戻る事になるでしょうから」
微笑みながら言う真崎の言葉に、設楽はそれもそうかと納得する。
「アシ(車)はあんのか」
「一応ございますが、よろしければ隣に乗せて頂けませんか?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
真崎の車がどうであれ、設楽はこの場に車を残していく事は出来ない。どうせ飯を食うだけだと気楽に真崎を車に乗せた事を、設楽はだがすぐに後悔することになった。
ぐらりと、車体がセンターラインを割って、設楽は慌ててハンドルを切る。その姿に、クスクスと笑い声が車内に響いた。
「危ないじゃないですか。ちゃんと運転していてください、設楽様」
「テメェ、ふざけるのもいい加減にしろ」
低く唸る設楽の下半身に、真崎が顔を埋めていた。その頭をどかそうとして、設楽は車体をふらつかせたのである。片手で髪を掴んで唸る設楽を気にした様子もなく、真崎がくぐもった笑いを漏らす。
「これくらいで動揺するなんて、設楽様は割と真面目なんですね」
「野郎にしゃぶられんのなんぞ気持ち悪いんだよ。離れろ」
「女より男の方が良いって、教えて差し上げますよ」
自信満々にそう言って、真崎はむき出しにした設楽の雄芯を唇で食んだ。
「ッ…テメェ…」
「うっふ…おいひい…ひたらはま…」
ずるずるとわざとらしく水音をたてて啜り上げる真崎の舌技は巧みで、ピクリと設楽の腰が僅かに揺れる。いつの間にか、髪を掴む指から力が抜けていた。
住宅街の、車通りの殆どない路地へと突っ込み、車を停車させた設楽は今度こそ本気で真崎の髪をぐいっと引き上げた。
「痛ぅ…っ、さすがに…そこまでされると痛いですよ…設楽様」
喉を仰け反らせて苦笑を漏らす真崎を、見下ろす設楽の目は凍てつくように冷たい。
「売女が」
「ふふっ…わたくしを一晩、買ってはくださいませんか」
ゆるりと、真崎の細い指が唾液に濡れた設楽の雄芯を撫でた。
独身用ではあるが広いマンションの玄関。ドアが閉まると同時に、設楽は易々と真崎の躰を片手で壁へと縫い付けた。脚の間に差し込んだ膝で真崎の躰を軽々と持ち上げる。
「これでは…奉仕が出来ません…設楽様」
「奉仕の前に客をその気にさせんのが先だろう」
「お履き物を汚しても?」
「勝手にしろ」
どう煽ってくれるんだと口の端を歪める設楽の脚の上で、真崎は躊躇いもなく自らの前を寛げた。既に質量を増した屹立を衒いもなく剥き出しにして指を絡める。
「設楽様…貴方の脚の上で乱れるわたくしのはしたない姿を、どうぞご覧になってください…」
うっとりと囁く真崎の顔に、妖艶な笑みが浮かぶ。
くちくちと微かに肉の擦れる音が静かな玄関に響いた。
「ぁ…んっ、設楽様…早く…貴方に奉仕したい」
「大した野郎だな。いつもそうやって男誑かしてんのか?」
「は…ぁっ、そう無粋な事を…仰らないで…ください。今は…貴方がわたくしの所有者です…それでいいじゃないですか」
どこか挑発的な色を纏う真崎の台詞に、設楽は可笑しそうに笑う。面白い男に目を着けられたものだと、そう思った。
「所有者ね…。押し売りしておいて勝手な野郎だな」
「買って後悔させないだけの自信がありますので」
「面白れぇ。精々媚びを売ってみせろよ、一晩お前を買ってやる」
そう言って設楽は膝を下ろすと真崎に顎をしゃくってみせた。どこへでも連れていけと。
真崎が設楽を案内したのは、言うまでもなく寝室だった。ただし、寝台の横にあるテーブルの上には異様な雰囲気を放つ様々な玩具が無造作に乗っている。
「こりゃあ驚いた。お前、本気で売(ウリ)でもやってんのか」
「ご想像にお任せ致します」
どうぞ…と、テーブルの横にあるソファへと誘われ、設楽は呆れたように首を振って腰を下ろした。その足元に、真崎が静かに傅く。
「設楽様…わたくしを、貴方の玩具にしてください」
「とんだ変態だな」
「はい。だから貴方を選びました。貴方なら…わたくしをそこの玩具と同じように扱ってくださるでしょう?」
まただ…と、設楽はそう思う。真崎の台詞には、挑発と懇願の両方が含まれているような気がしてならない。まったく、妙な男だ。
「あんたが俺に何を期待してんのか知らねぇが、面白そうだ。どの玩具で遊んで欲しいか、お前の好みを教えておけ」
迷わず真崎が手を伸ばした先にあったのは、革と金属のリングで出来たペニス用のハーネス。
「ははっ、根っからの変態って訳か。咥えて持ってこい」
「はい」
躊躇いもなくテーブルへと顔を寄せた真崎はハーネスを咥えると、そのまま床を這って設楽の手元に差し出した。
「ひたらはま…」
「立て。目の前で着けてみせろよ」
「はひ…」
ゆっくりと立ち上がった真崎は、ハーネスを咥えたまま服を脱ぎ捨てる。露になった雄芯は既に硬く勃ちあがり、見られて興奮したのか濡れた先端にぷくりと雫を浮かべた。
設楽の目の前には、四肢を拘束された真崎が文字通り転がっていた。左右の手首と足首を革の拘束具で繋いだのは設楽だ。伸ばす事の出来ない膝の間に、真崎が自ら着けたハーネスに戒められた雄芯が反り勃っている。
苦しそうに息を漏らす真崎の口には、シリコン製の棒で出来た猿轡が噛まされていた。
「ふっ…ぅ、うう…ッ」
拘束されただけで感じているのか、とろりと溶けたような真崎の眦にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「玩具にされたいんだったか…。精々持ち主を楽しませる反応を見せろよ?」
言いながら見せつけるように太いバイブへとローションを垂らしてやれば、目に見えて真崎の喉が上下する。一瞬、後ろを解すかどうかを悩んだ設楽は、だがそのまま無造作に手に持った無機物を真崎の後孔にあてがった。
焦らす事もせずに一気に襞を割り開く。
「うぐッ、ううぅうッ、あ゛…う゛…」
眦から零れた涙が真崎の蟀谷を濡らした。苦痛と快感の入り混じったその表情が艶めかしくて、設楽は満足げに喉を鳴らす。
「良いツラだ。望み通り玩具として扱ってやるよ」
指先でバイブの尻にあるスイッチをぐっと横にずらせば、くぐもった羽音とともに設楽の手にも振動が伝わってくる。元より敏感な部分に当たるように張り出した形状のバイブは、容赦なく真崎の腰を跳ねさせた。
「ふぐぅッ、う゛う゛…、あぁあ…あッ」
寝台の上でガクガクと躰を震わせる真崎の雄芯からは、とめどもなく透明な雫が溢れては滴り落ちていく。ハーネスで射精を管理されていなければ、間違いなく白濁を吹き上げているのだろう。
苦しいには苦しいのだろうが、むしろそれが真崎の望みである事は明らかだった。
うねる後孔の襞がバイブを食んで、真崎の意志とは関係なく押し出そうとするのが分かる。ふと設楽は口角を歪めた。
「いつまで俺に持たせとくつもりだ? てめぇでしっかりケツに咥え込んでおけよ。指くらい届くだろうが」
ぐいっと一度最奥までバイブを押し上げて、設楽はその手を離す。足首と繋がった手をゴソゴソと動かし、真崎の細い指が今にも抜け落ちそうな玩具の尻を押さえた。そのまま、ゆっくりと押し戻していく。
「あうぅ…うんッ、ふっ…う゛」
「それでいい。好きなように動かして遊んでろ」
あっさりと寝台を降りた設楽はソファに戻ると煙草を点けた。僅かばかり離れた寝台の方から、くぐもった喘ぎとぐちゅぐちゅと卑猥な水音が聞こえてくる。
呻きにも聞こえるが、明らかに快感を含んだ声を聞きながら設楽はテーブルの上に散乱している玩具の中にある小さな箱に目を止めた。一見ちょっと大きめのジュエリーボックスに似たその箱を取り上げると、蓋を跳ね上げる。箱の中身は、ボディピアスだ。
こんな物まで用意してあるところを見れば、真崎は真正のマゾヒストなのだろうと思う。その割に綺麗な肌をしているのが不思議ではあるのだが。
設楽は煙草を灰皿に揉み消すと、箱を持って寝台へと戻った。
「おい変態、こりゃあいったいなんだ? 穴開けられてぇのか?」
設楽が目の前にニードルを差し出せば、涙と涎で顔をぐしゃぐしゃにした真崎がゆるゆると首を横に振った。その目には、僅かな恐怖と好奇心、それと、期待が入り混じっている。
「ううっ…ふうっ」
「どこに穴開けて欲しい」
囁くように言いながら、設楽はニードルで軽く真崎の頬を撫でた。
「ふっ…ぅ、ふ…」
さすがに刃物を向けられれば恐怖を感じるのか、幾分か呼吸を浅くして動きを止める真崎に、設楽は薄く笑う。そのままゆっくりと真崎の目を覗き込んだ。
「っふ…ぅっ」
ニードルを真崎の視界にしっかり入る場所へと移動させて、設楽はゆっくりと口を開く。
「舌か? 唇か? 胸か? 腹か?」
喋る事の出来ない真崎の反応を窺うようにひとつひとつ言った後で、設楽は笑った。
「まあピアスの形状からしてその辺りだろうが…。いいだろう、お前の望んでる場所に穴開けてやるよ」
「ぅ…ううッ」
上体を起こす設楽を、真崎の濡れた視線が追う。シリコン製の猿轡を食んだ唇が、微かに震えていた。
いつの間にか抜け落ちたバイブが寝台の上で羽音を響かせる。
「誰が抜いて良いって言った?」
設楽の膝が、ハーネスを纏う真崎の雄芯を容赦なく圧し潰した。
「ああぁあッ! あぐッ、ううぅっ、あ゛ッ」
悲鳴を上げる真崎の膝が反射的に閉じて、設楽の脚を挟んだ。
「しっかりケツに咥えてろって言わなかったか、ああ?」
「ふうッ、…ふっ、う゛う゛…んッ」
痛みにボロボロと涙を零しながら頷く真崎を見下ろして、設楽はじわじわと膝に体重をかけていく。真崎の目には、はっきりとした恐怖が浮かんでいた。
「どうした。玩具にされたがるくせに、壊されんのは怖いのか?」
「んうッ、うっ…ふっ…あぐ…ッ」
「脚を開け。本当に潰されてぇなら、そのままでも構わんがな」
胸を上下させながら浅い呼吸を繰り返し、真崎はゆっくりと膝を開いていく。設楽は膝を退けて、従順な態度を褒めるように雄芯をハーネスの上から撫でてやった。結構な荷重をかけたにもかかわらず、痛みに萎えるどころか真崎の雄芯は幾らか質量を増しているような気がするから呆れたのもだ。
「さすがに使い物にならなくなんのは困るってか? 可愛らしいところもあんじゃねぇか」
「うう…ッ、ふっ…んんッ」
この男の限界はどの辺だろうかと、設楽はそんな事を考えながら硬度を増した雄芯を手で弄ぶ。時折気紛れに強く握り込めば、真崎は嬌声とともに涙を零した。
そろそろ恐怖も薄れてきただろう頃合いを見計らって、雄芯から手を離した設楽は再びニードルを真崎の目の前に突きつける。
「さて、利口な玩具には褒美をやらねぇとな」
「ふうッ、う…っ、んッ」
「存分に泣き叫べよ」
たいして興味もなさそうに言いながら、設楽は無造作に真崎の乳首を摘み上げた。その強さに、真崎は背を反らせて胸を突き出す。
「ん゛ん゛ッ、うっ」
限界まで引き上げては指を離し、圧し潰すように捏ねくり回していれば、真崎の胸の上で小さな飾りがほんのりと赤く色づいて尖った。設楽がニードルをゆっくりと近付けると、ピクリと真崎の肩が震える。
僅かに恐怖の色を浮かべる真崎に構うことなく、片手で摘まんで固定した胸の突起を設楽は一気にニードルで横から刺し貫いた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! ッぐ、…ふっ、ふうッ、う゛ッ」
喉を仰け反らせ、ぶるぶると躰を震わせながら真崎が涙を流す。全身を強張らせて痛みを堪えておきながら、ハーネスに戒められた雄芯ははち切れんばかりに存在を主張し、鈴口から透明な糸を腹に垂らしていた。
「もう片方も、欲しいか?」
泣きながらガクガクと頷く真崎の顔には紛れもない恍惚が浮かんでいて、設楽は思い立ったように猿轡を外した。はっきりと噛み痕の残ったシリコンが、透明な糸を引いて真崎の口から離れる。
「うっ…はッ、はぁっ…ぁっ」
「どうして欲しいのか言ってみろよ変態」
「わたくしの…乳首に、ピアスを着けてください…貴方の、手で…」
ずるりと皮膚を貫いているニードルを引き抜けば、それだけで真崎は嬌声をあげた。
「っあ、ああっ…設楽様ッ、お願いします…早くっ」
強請るように背を反らせ、胸を突き出す真崎の胸へと設楽はピアスを着けてやった。留め具をつければ、本体と留め具とを繋ぐ細い鎖が小さく揺れる。僅かに滲んだ赤い体液を、設楽は無意識に舌で掬い上げていた。
「はあぁっ、設楽様…っ、気持ちいい…。もう片方も、着けてください…。貴方の手で…貫かれたいッ」
我慢できないとでも言うように身を捩る真崎の、右側だけ手と足を繋ぐ鎖を外してやる。
「自分で押さえてろ」
「はい…っ」
真崎は言われた通りにピアスの着いていない方の乳首を自分で摘まみ上げた。勃たせるまでもなく尖りきった乳首を、ニードルで刺しやすいようにきゅっと引き上げて胸を突き出す。
「っぁ…設楽様…っ、これでよろしいでしょうか」
「上出来だ。褒美をやるよ」
「ありがとうございます…っ」
ニードルをあてがったまま、設楽が低い声で囁く。
「離したら今度こそ踏み潰されると思え」
「は、い…」
つぷりとニードルの先端を潜り込ませれば、真崎の躰が硬直するのが分かる。設楽は一気に貫かず、ジリジリといたぶるようにニードルを進めた。
「ひぎッ、…っあ゛、あ゛あ゛ッ、ひたら…様ッ、そんっな…あッ、ああぁ…っ!」
「痛ぇのが好きなんだろ? 乳首に穴開けられてチンコから涎垂らすド変態だもんな」
「あぐ…っ、ん゛ッ、もっと…罵ってくださっ、あぁあッ」
ニードルの先端がようやく反対側の皮膚を突き破る頃には、真崎は失神する寸前だった。ビクビクと痙攣するように躰を震わせる真崎の指はだが、乳首を摘まんだままだ。半開きの口から唾液を滴らせ、うっとりと涙を流す。
「離していいぞ」
「は…ひ…、ひたら…しゃま…ぁ」
とろりと恍惚に溶けた表情で返事をする真崎のろれつは、完全に回っていなかった。痛々しいほどに膨れ上がった屹立は、とめどなく溢れる蜜で下生えをぐっしょりと濡らしている。
「ぁ…ぴあす…着けてくらさ…」
真崎が求めるように設楽へと右手を伸ばす。その手を設楽は容赦なく払い落とした。
「玩具の分際で持ち主に触るんじゃねぇ」
「も…しわけ…ごじゃいませ…、ひたらしゃま…ゆるひて…くらさ…」
「黙れ。着けて欲しけりゃ元のようにテメェで脚でも掴んでろ」
返事をし掛けるものの、口を噤んだ真崎はだらりと伸びきった右足をゆるゆると動かして膝を立てると、その足首を自ら掴む。
もう片方の乳首にも設楽がピアスを着けてやると、真崎は幸せそうに微笑んだ。
「設楽様ぁ…お礼に…ご奉仕させてくらさい…」
「その前に、手が動くなら先にする事があんだろうが」
「っ…はいっ、気が付かず…申し訳ごじゃいませ…っ」
ぱたぱたと寝台の上を探るように手を動かして真崎は抜け落ちたバイブを拾い上げると、迷うことなく自らの後孔へと突き立てた。
「ふうっ、ん…ッ、設楽…さま…、お願いします…ご奉仕の許可を…」
縋るように見上げる真崎に、設楽は軽く顎をしゃくった。
左側は拘束されたままで、不自由そうに身を捩りながらも真崎は設楽のすぐそばまでにじり寄る。だが…。
右足で躰をひっくり返したものの、膝をついた事で上がった足首に左手をとられ、自由な右手はすぐに抜け落ちそうな玩具を押さえていて寝台の上に突っ伏したまま真崎は身動きできなくなった。
顔を横に向けて喘ぐだけが精一杯の真崎を、設楽が嘲笑う。
「どうした? せっかく奉仕させてやるって言ってんだ、してみろよ」
「っ…設楽…様…、左手も…外しては頂けないでしょうか…」
「我儘な野郎だな」
「申し訳…ありません…。どうかお許しを…」
懇願する真崎の髪を無造作に掴み上げ、設楽は口許に酷薄な笑みを浮かべてその顔を覗き込んだ。
「馬鹿じゃねぇのか。玩具なら玩具らしく、使ってくださいだろうが」
設楽が言った瞬間、弾かれたように真崎の表情が変わるのが見てとれた。うっとりと溶けた瞳には設楽しか映っていない。
「っぁ、設楽様ッ、分を弁えず出過ぎた真似を致しました」
真崎の上体が半ば仰け反るほど持ち上げられていた設楽の手が、ぱっと髪を放す。支えるものも、自ら支える事も出来ない真崎は顔面から寝台の上に落ちた。
「うぶ…っ」
「テメェは何だ? 言ってみろ」
「設楽様の玩具ですっ。どうか…わたくしを使ってください!」
寝台に突っ伏したまま、愉悦に満ちた声で真崎は懇願した。その髪を、再び設楽の手が掴み上げる。
「どこを使って欲しい」
「っ……貴方に使っていただけるのなら…どこでも…」
「殊勝な振りはよせ。別に俺はテメェを使ってやる必要はねぇんだよ」
「の…ど…、喉を、わたくしの喉を設楽様のペニスで塞いでッ」
髪を引っ張られている痛みなど苦痛ですらないのか、真崎の顔には明らかな悦楽の色が浮かんでいた。
設楽の手が、ゆっくりとおろされる。”使う”と、その言葉通り、設楽は真崎の頭をまるで道具のように自らの雄芯の上におろした。
「望み通り塞いでやるよ。思う存分苦しめ」
真崎の口が半分ほど雄芯を飲み込んだところで、設楽は髪を手放した。当然ながら自分で支えることが出来ない真崎は、一気に喉の奥まで剛直を飲み込む羽目になる。
「うぐッ…え゛ぁ、う゛ッ」
一気に耳まで赤くなるのが設楽にも見てとれた。息が出来ない苦しみはどれほどのものだろうかと思う。あっという間にボタボタと唾液が下肢を濡らしていくのを感じながら、設楽は無表情に真崎の頭を見下ろしていた。
背を震わせ、次第に声すら出せなくなっていく真崎の髪を、設楽は掴んで持ち上げてやる。
急速に流れ込む空気を貪り、咳き込みながら息をする真崎の頭を、だが設楽はすぐさま自らの雄芯の上におろした。モノのように扱えと言うのなら、最低限呼吸をさせてやればいいかと、ぼんやり思う。何せ真崎は、そのために設楽を選んだと、そう言ったのだから。
小さく喘ぐ真崎の髪を掴み上げ、呼吸をさせてはまた喉を塞ぐ。そんな行為を繰り返しながら、設楽は感情のこもらない目で真崎をじっと見ていた。
真崎は、人を見る目はあるのだろうと、そう思う。確かに、設楽は人を物のように扱う事が出来る。興奮して我を失うような事もない。
既にぐったりとされるがままになった真崎の顔を覗き込めば、閉じる事を忘れた口から舌がだらりと垂れ下がっていて、とうに理性の欠片もない事が窺えた。
設楽の腕が無造作に動いて、真崎の躰が寝台の上に仰向けに転がる。その反動に、拘束されていない右手と右脚が投げ出され、後孔からバイブが抜け落ちた。
「ぁ…ひ…たら…さ…」
ひゅーひゅーと喉を鳴らしながらうっとりと微笑みを浮かべる真崎の右足を、設楽は掴んで持ち上げた。ず…と寝台の上を引き摺って引き寄せれば、ゆっくりと唇が動く。
「挿れてくらさ…ひたらさま…。わたくひの…使ってぇ…」
ゆるりと動いた真崎の細い指が、尻たぶを僅かに開く。そのすぐ横で、ひくひくと襞が物欲しそうに口を開き、濡れた赤い肉が覗いていた。
ぐっ…と、真崎の両脚を胸につくほど押し上げて、設楽は雄芯を開ききった穴へとあてがう。覆いかぶさるように焦点の合わない目を覗き込んだ。
「欲しいか」
「ほ…ひぃ…」
「誰に言ってる。ハナからぶっ壊れてる玩具に興味はねぇんだよ」
ゆらりと、真崎の瞳が動いて設楽を映し出す。だらしなく開いていた唇が、綺麗な弧を描いた。
「設楽様ぁ…どうか、わたくしのはしたない穴を…貴方のペニスで壊してください」
「ははっ、上出来だ。使ってやる」
開ききった襞をなお押し広げて、設楽の雄芯が真崎の躰を貫く。一気に最奥まで埋め込まれる衝撃に、真崎は艶やかな嬌声を迸らせた。
大きく開かれた脚の間で、ハーネスを纏った屹立がぶるりと震える。鈴口から滴り落ちた雫が真崎自身の胸元へと透明な糸を引いた。
「はぁッ、あッ、設楽様っ、気持ちいいッ」
快感に全身を強張らせる真崎を抱え上げて、設楽は後ろへと倒れ込んだ。腹の上に乗り、自重で奥の壁を抉り仰け反る真崎の腰を掴み、さらに引き下げる。
「あがッ、いっひ…ッ、それっ…いじょお…壊れッ」
「ぶっ壊して欲しいんだろ?」
「はひっ! 壊しっ…くだッ、ひあぁああッ」
悲鳴とともに、真崎の躰が仰け反る。
設楽の指が、乳首に垂れ下がった鎖にかかっていた。
「ちっ…ぎれ…ッ、ひッ、ぎもちいいッ、設楽様ぁ!」
ガクガクと躰を震わせて真崎が涙を流す。雄芯を食んだ後孔がぎゅっと締まり、設楽は僅かに目を細めた。
「変態。テメェの片手が空いてんだろぅが。ケツの穴抉ってやっからテメェで弄れよ」
「あひッ、あいがとうごじゃいま…っ」
歓喜しながら細い指を鎖にかけて引っ張る真崎を、設楽が下から突き上げる。薄い筋肉を纏った真崎の躰は、本当の玩具のように設楽の上で踊り狂った。
突き上げられては落ちる度に最奥を抉られ、真崎はボロボロと涙を零す。理性などとうにぶっ飛んで恥も外聞もなくなった真崎は、穴という穴から体液を滴らせ、恍惚に酔い痴れているようだった。
「あっ…ひッ、いいッ! ぎもぢい゛ッ、乳首…っ、千切れ…っ」
「おいおい、持ち主に断りなく千切るんじゃねぇぞ変態」
「はひっ! ひたらしゃまの…仰るとおぃにいたひまふっ」
設楽の腹の上で、これまで以上にダラダラと涎を垂らして真崎の雄芯が揺れ動く。みっしりとハーネスの食いこんだソレを強く握り込めば、真崎の口からは悲鳴が迸った。
「ひぎぃいいい゛ッ、らめっ、さっ…わんな…れ、くらしゃッ…イギたく…なっちゃ!」
「なれよ。もっと苦しめ。もっと壊れてみせろ」
容赦なくハーネスの上から雄芯を擦り上げ、ナカの媚肉を設楽が抉る。壊れたいと言うなら、人の尊厳など微塵も失くしてぶっ壊れろと、そう思う。
「あひッ…い゛、イギだい…ッ、出し…ったぃ! はぐぅ…ッ」
一度意識が向けば我慢など出来る筈もないのは設楽にも分かる。幾度吐き出すことなく絶頂を迎えているか知れない真崎の雄芯は、既に変色しそうなほど張り詰めていて、限界も近い。
イヤイヤと頭を振りながら涙を振り零す真崎を、設楽が軽薄な笑み浮かべて見上げていた。
ぐっと設楽の腹筋が引き締まり、上体が起きる。目の前で小さく揺れる鎖を、設楽は剥き出しにした歯で挟み込んだ。口角が上がったそれは、明らかに笑みを象っている。
「引き千切ってやろうか。ん?」
くっ…と軽く横にずらしてやれば、肉を貫通している金属がずるりと動く。穴を空けたばかりで塞がろうとする肉が容赦なく引き攣れて、真崎は悲鳴を上げた。
「うあぁあああッ、あ゛ッ」
全身を硬直させる真崎の雄芯が、ビクリと大きく跳ねる。鈴口から生暖かい液体が滴り落ちて、設楽は呆れたように笑った。
「気持ち良くて漏らしたのか? どうしようもねぇ野郎だな」
「ぁ…ひ、…もぅ…イかせてくら…ひゃい…」
焦点の定まらない目を虚ろに泳がせ、胸を喘がせる真崎の口から小さな懇願が漏れる。そろそろ限界かと、設楽は歯に挟んでいた鎖を離すと真崎の胸を軽く押した。どさりと、寝台の上に沈み込む真崎の拘束を外す。
「オラ、イきたきゃ勝手にテメェで外せよ」
「あぃがとぉごじゃいま…」
ゆるゆると手を動かす真崎に、だが設楽は勢いよく後孔を穿った。
前触れもない突き上げに、真崎の背が撓る。仰け反った喉から声にならない悲鳴が漏れた。
「あ゛ッ、――…ッッ!!」
細い指が、自らの雄芯を掻きむしる。強引に揺さぶられ、ハーネスを外そうにも上手くいかないもどかしさに真崎は泣き叫んだ。
「ひやぁッ、あ゛ッ、待っ…お願ッ、待ってくらさ…っ、イぎぃ…!」
「良いツラだ。望み通りぶっ壊してやっから覚悟しろ…ッ」
「あひッ、あ゛ッ、イぐぅ!! イギだッ…」
突き上げられるたびに声を漏らし、真崎の指先はハーネスの上を滑る。両手が自由になろうとも吐き出せない苦しみに苛まれ、真崎は文字通り壊された。
設楽の指が、ハーネスを外す。
ビクンッと大きく一度腰を跳ねさせて、真崎は雄芯から噴水のように白濁を吹き上げた。瞬間、後孔がぎゅっと収縮して設楽の雄芯を締め付ける。奥の壁をさらに押し上げて、設楽は欲をぶちまけた。
「あぐッ、ひたらしゃまっ、おくが…ぁ、せーえき…いっぱいれふぅ…っ」
「ッ…は、喜んでんじゃねぇよ変態」
訳も分からず四肢を投げ出し、真崎は穴という穴から体液を垂れ流す。
設楽に揺さぶられるまま、勢いがなくなってもなお真崎の中心は先端からダラダラと体液を吐き出し続けた。だらりと垂れ下がった舌を懸命に動かして、真崎は虚ろに言葉を紡ぐ。
「はうっ…あッ、イイ…ひたらしゃまぁ…とまんら…っい、わたくひの…ぺにす…壊えちゃ…まひた…」
「そりゃあ良かったな」
「はひぃ…ひたらしゃまの…せーえき…あふれちゃ…まふぅ…」
視線を宙に彷徨わせる真崎の中から雄芯を引き抜き、設楽は額にかかった前髪を掻き上げた。
ずりずりと寝台の上を這って顔を寄せた真崎が、嬉しそうに萎えた雄芯に頬擦りする。
「おそうじ…ひてもいいれふか…?」
「勝手にしろ」
「あいがとうごじゃいま…」
柔らかくなった雄芯をちゅうちゅうと吸う真崎を見下ろし、設楽は小さく息を吐く。いつまでも離そうとしない真崎を引っぺがし、首を圧迫して軽く気絶させて、ようやく設楽は寝台から降りることが出来た。
直視するのも憚られるほど乱れた寝台に、真崎を残す事に設楽は罪悪感など感じない。ついでに言えば躰を清めてやろうという気にすらならなかったのである。
布一枚纏うことなく寝室を抜け出し、設楽は台所を探す。さすがに腹が減っていた。単身用にしては大きな冷蔵庫を無遠慮に開ければ、それなりに食材が並んでいる事に安堵する。わざわざ買いに出なくて済むのは有り難かった。
味見を済ませた鍋の蓋を閉じて設楽が寝室へと引き返そうとすれば、タイミングよく廊下に真崎の姿がある。
「おい変態」
「設楽様…?」
首筋をポリポリと掻きながら寄ってくる真崎もまた、布一枚纏ってはいなかった。真崎がくんくんと鼻を鳴らす。
「いい匂い…煮物…ですか?」
「テメェのせいで飯を食いそびれたからな」
「そういえばそうでした」
悪びれた様子もなく言って真崎が笑う。ぺたぺたと廊下を裸足であるいて台所に入った真崎は、コンロに乗った鍋を開けて破顔した。
「ぶり大根ですね。美味しそうです」
無邪気に笑う真崎の頭を、設楽は容赦なく引っ叩く。
「その前に言う事があんだろうが」
「言う事…ですか?」
きょとんと見上げてくる真崎に設楽は溜息を吐きたくなる。あれだけ人様に迷惑をかけておいて自覚もないのかと思えば、呆れてものも言えないというのだ。
無造作に伸ばした設楽の指が、真崎の胸に揺れる鎖にかかる。くっ…と軽く引っ張り上げてやれば、真崎の口からは艶やかな声が漏れた。
「はぁ…んっ、設楽様…こんなところでいけません…」
「そうじゃねぇだろうが変態。人にこんなモン着けさせといて一言もなく盛ってんじゃねぇって言ってんだ」
「ああ…、そうですね。わたくしとしたことが失礼を致しました」
馬鹿丁寧に頭を下げた真崎は、だがしかし設楽の前にすっと傅いたのである。疑問に思う間もなく目の前で頭を下げた真崎は、設楽の素足にしっかりと額をつけてこう言った。
「わたくしを、ずっと貴方の玩具として手元に置いてください…設楽様…」
「はあ!?」
「え? 駄目ですか…?」
「駄目もクソもねぇだろう。一晩だけっつったろうが」
吐き捨てる設楽の足元から、真崎が捨てられた子犬のような顔をして見上げてくる。
「わたくしは…お気に召しませんでしたか…? その…先ほどは出過ぎてしまいましたが…、今後はちゃんと玩具としての分を弁えますので…」
お願いしますと、そう言って真崎は再び設楽の足の甲に額をつけた。思わず設楽が足を引けば、真崎の口からは傷ついたような縋るような悲鳴が上がる。
「設楽様…っ」
「やめろ気色悪い。どうしてそう何度も俺が変態に付き合ってやらなきゃならねぇんだよ」
心底嫌そうに吐き捨てる設楽の前で、真崎は正座をしてその顔を俯けた。その耳が、僅かに赤い。
「その…初めてだったんです…。設楽様が…」
「ああ!?」
思わずよろめく設楽である。だが…。
「わたくしを…最後まで玩具のように扱ってくださったのは…貴方が初めてで…、その…いつも最後は優しくされてしまって…萎えるというかなんというか…」
「ただの変態じゃねぇかよ」
「あうッ、もっと…もっと蔑んでください設楽様ッ」
脚に縋りつく真崎から離れようとする設楽はだが、壁に阻まれて上手くはいかなかった。言う事があるだろうなどと言わなければ逃げられたかもしれないと、後悔したところで今更遅い。
しっかりと脚を掴む真崎に溜息を吐いて、設楽は一度目を閉じた。次の瞬間、目を開けると同時に設楽は真崎の躰ごとその長い脚を振り抜いたのである。
ガツッと、派手な音をたてて真崎は背中から壁に激突していた。
「っぐ…!」
「離せ変態。それ以上ふざけた事ぬかしたら承知しねぇぞ」
「ぁ…ああッ、設楽様…こんなに激しくされたらわたくしは…っ」
まさに逆効果。盛大に間違った選択をしたと設楽が気付いた時には遅かった。ボロボロと涙を零しながらしがみ付く真崎に眩暈を覚える。
いい加減腹は減るわ鬱陶しいわで、設楽は白旗をあげた。
「分かった。分かったから取り敢えず離れろ。持ち主の言う事も聞けねぇような玩具は要らねぇ」
「は、はいっ」
すちゃっと床に正座する真崎に一先ず胸を撫で下ろし、設楽は内心で頭を抱えたくなる。まったく妙な男に懐かれたものだと、苦虫を噛み潰したような顔をする設楽を、真崎がうっとりと見上げていた事は言うまでもない。
風呂だ飯だとどうにかあしらい、げんなりする設楽を変態から救ってくれたのは、携帯電話の着信音だった。液晶に映し出された”辰巳匡成”という文字に、設楽は一生この人についていこうと思ったとか思わなかったとか。
今後続くであろうド変態真崎と設楽の攻防戦の行方は、また別の話。
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