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第7話
ファロスとて、宮廷に仕える貴族の嗜みとして社交界の話についていくために、貴顕御用達の選りすぐりの男娼が居る店で――そこもサロンめいた雰囲気で歓談が行われている。ただし、妍を競う男娼は身体のラインがくっきり見える薄絹を纏っているのみで、貴族や大商人はそれなりの衣服や貴金属を身に着けているので一目で分かる――それなりの経験は積んでいた。
そしてその馴染みになった男娼だけでなく――三日続けて床入りすれば馴染みと認識されるのが一般的で、パトロンとか特別な人と呼ばれたければ一年分以上の金子を支払わなければならないが独占出来る仕組みだ――立派なパトロン持ちの有名な男娼から「その話がご破算になっても」と真剣な眼差しで言い寄られたこともあっただけに性の技はそれなりに自信があったが、相手が聖神官、しかもこれほどまでに無垢さと妖艶さの精妙さが紙の域に達しているような人相手に通用するのかは正直不安だったが、腕の中で熱い息を零しているキリヤ様の瞼までが紅色に染まっていて長い睫毛にも悦楽の涙の雫が細かな煌めきを放っている。
「まだ……抜かない方が良い……戦神が……金の声で私に告げているゆえ……」
神と繋がった証しはキリヤ様の身体の深くにしとどに放っていたが、どうやら戦神のご加護が――もしかしたらそれ以上の御託宣までかも知れない――賜れたらしい。
神が下り給うたのか、キリヤ様は先程の禊の時の色香に加えてさらに恍惚とした表情を浮かべているのを身体を密着させたまま見下ろして、ただ静かに魅入られていた。
「――我が敬虔な信者よ……。まずはこの者に――接吻を与えるが良い――」
声は紛れもなくキリヤ様だったが、どことなく違和感を抱いてしまうのは戦神がこのしなやかな肢体に顕現なされたのかもしれない。
ご託宣のまま、紅さの増した唇に唇を重ねた。禁忌を犯す背徳感で、まるで初めての接吻のような胸の高鳴りを覚えつつ。
薄い唇だと思っていたが、恐る恐る重ねてみると意外にも柔らかくてずっと口づけだけを交わしたくなってしまう。
その気持ちが通じたのか、柔らかい唇が誘うように開かれた。舌で唇の熟れた果実のような柔らかみを辿ってから、さらに開いた唇の中に舌を挿れてみた。
すると意外なことに、甘く熱い天鵞絨のような舌がファロスの舌と絡み合う。
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