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第17話

 半ば感心しながらファロスは呟いた。キリヤ様は薄紅色に染まった花のような容貌をさらに紅く染めて微笑んでいる。 「私の場合、いや神殿の皆様方全てと申しても良いだろうが、戦神を祀る場所ゆえ軍事には興味も持ち合わせているし、如何にして勝つかは『机上の空論』で考えている。  しかし、ファロスのような参謀でも、負け戦になれば命すら危ういだろう。そういう危ない場所に身を晒すのが俗世間の習いとはいえ、私たちはその点が異なるな。それに自らの予想が外れても――そのようなことはほぼ無いが――私達の身に何事も起こらないのだから自ずから重みが異なる」  キリヤ様の明敏かつ怜悧な声が程よく散らかった私室を暖かい感じで響いた。 「なるほど……。しかし、それは神殿という神に近い場所と、俗世間という出世欲や権勢欲が渦巻いている場所の違いとも言えます。  それはそうと、話を本筋に戻しますが……。谷から馬で駆け下りて急襲するという作戦ですが、目的は戦に勝つことではなく、勿論、敵国同盟の軍にもいたずらに戦死者を出すわけでもないのです。あくまで人質というか捕虜を多数捕らえるようにと厳命致しております。  出来れば二国の歩兵をほぼ同じ数だけが望ましいです。そして、その捕虜達には危害も加えず、噂を撒きます」  キリヤ様が興味深そうにファロスの顔を見ていた。月の雫のような額飾りを煌めかせて。 「噂か……どのような?ああ、離間策めいたしろものなのか」  キリヤ様は壁に掛かった克明な地図を作製している時もきっとこのように熱の籠った感じなのだろうと容易に察することが出来る感じだった。 「はい。フランツ王国の捕虜達には『エルタニア国は実は我が国と密約を結んでおり、その証拠に実際エルタニアの捕虜は待遇が全く異なる上すぐに釈放される』と。実際に待遇面も異なることをわざと見せるような『不用意さ』も抜かりなく」  キリヤ様がよりいっそう興味をそそられたような表情を浮かべてファロスを見詰めていた。長い睫毛がなめらかな肌に綺麗な影を落としている。 「なるほど……エルタニアの国と先に密約が有ると思い込ませるようにか……。そうすることによって大平原で行われる合戦の士気が下がる、もしくはその前に同盟が瓦解するようにと?それならば、さらに積極的にエルタニア軍の捕虜の士気を削ぐ方法がある」

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