19 / 54

第19話

「エルタニア国は国王おん自らがご出陣と聞いております。『宰相が国王陛下の留守を狙って廃太子と、あわよくば討死してもらって第二王子を王位に就けて自分は影の執政者を狙っている』との流言を流すということでしょうか」  第二王子の度を過ぎた放蕩振りはエルタニア国だけでなく周辺各国にも噂として流れている。娼館通いは――独身であれば――そんなに目くじらを立てられることはないが、それも程度問題で、エルタニア第二王子の場合は明らかに心有る人間には眉を顰められていたのも事実だった。 「そうだ。宰相に国の政治は全てを任せて出陣したにも関わらず、王位簒奪の動きが有れば、戦どころではないだろう。  即座に軍を引いて国に帰るに違いない。  王たるに相応しい第一王子の命の危機だと思えば尚更のこと。  それに、フランツ王国の捕虜には『エルタニアが軍を引くと見せかけて我がカタロニア軍と秘密裏に結んだ同盟により、挟撃する隙を作るのが真の狙いなので動いてはならない』という旨のことを言っておけば良い。  ファロスもエルタニア国の捕虜達は、捕虜とは思えない厚遇を与えるのであろう?  そしてそれをわざと漏洩させて動揺させる狙いがあるようなので、エルタニア軍が自国の領土に帰るのか、それとも『命からがら』脱出した捕虜の証言通り矛を逆さまにして我が国との密約を――そんなものは存在しないが――守ってフランツ王国を共に撃つかと疑心暗鬼に駆られることは請け合いだ。  二国同盟は単純に考えれば兵力は二倍程度になるが、それは両国が厚い信頼で結ばれているという前提に立ってであろう」  ファロスは驚嘆の余り声も出ずにキリヤ様の言葉を聞いていた。己が考えて、しかも王様から大変褒められた「まずは捕虜を捉えて、その捕虜の口から二国の同盟を瓦解させる」という戦術をより緻密な形で提示されたのだから。  神殿が情報を宮殿よりも握っているという強みはあるにせよ、キリヤ様の精緻な頭脳の働きに驚嘆するしかない。  自分などよりも参謀の才能が有るキリヤ様が王に仕える道を選ばずに聖神官になったのだろうか。

ともだちにシェアしよう!