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第20話

「我が国王陛下から、我が国随一の参謀に最も相応しいとのお墨付きを頂いた身の上ではありますが、その私などよりも遥かな高みの――それこそ神々の領域とででも――御卓見に驚きと畏敬の念を新たに致しました」  キリヤ様がしなやかな肢体に纏っている純白の絹よりも艶やかな薄紅色の素肌がファロスの称賛を全身で受けたかのように、よりいっそうの紅に染まってとても綺麗だった。 「いや、私こそ頭で考えていることを誰か――特にファロスのように『人死にを最低限に』と本当に考えている参謀殿――に話せてとても嬉しかった。  普段は頭の中で考えているのみで、神官長様のお呼び出しがあれば戦況を私なりに分析してお話することはあるが。  こうして私の得た知識を戦略の根幹に採用しようとしてくれたのはファロスだけなので……」  聖神官の日常は俗世間にいるファロスにはつまびらかにされていない部分の方が多い。しかし、戦神の憑代として不特定多数の人間に「神事」と称して肌身を任せなければならない身の上をどう思っているのだろうか。  娼館に居る男娼達や、それよりも値が高い娼婦は生活のためと割り切って――そして大商人やあわよくば貴族の後妻や側室へと身請けされることを夢見て――いることは知ってはいたが。  神殿に居る限り衣食住に困ることはないだろうし、王家からの信仰の対象となるだろうが、それはキリヤ様個人ではなくてこの神殿に祀《まつ》られている戦神に近い場所にいる存在だからだ。 「すっかり冷めてしまったな……。お茶のお代わりを。あっ……」  ジャスミンの香りのするお茶を注ごうとしたキリヤ様は注ぎ口をカップではなく明後日の方へと傾けてテーブルの上の布をジャスミンの香りに染めている。 「恐れ多いことでございます。無礼な質問をお許しくだれば幸いですが……。あまりこういう日常のことには不慣れでいらっしゃるのですか?」  類い稀なる美貌や優雅この上ない挙措は、確かに俗世の者というよりも神の化身に近いという印象が強かった。しかし、テーブルの上を茉莉花のお茶を零して慌てたような、途方に暮れたような表情はむしろ愛らしさが勝っている。  ずっとこのような表情を見ていたいと思ってしまうほどに。

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