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第21話
白皙の端整な顔を薄紅色に染めて恥ずかしそうに頷きながら卓上に用意された布でふき取ろうとして、カップを添え皿ごと引っくり返しているキリヤ様は年相応のあどけなさに満ちていてとても魅力的だった。
布を持つしなやかな指も羞恥の紅色に染まっているのも。
「私が致しますので、どうかそのままにしておいて下さいませんか」
キリヤ様に任せておいては、未だ手を付けていいない料理の皿まで被害が及びそうなのでファロスは見兼ねて言った。ファロスとて自分の館に帰れば執事やメイドが全てを行ってくれる身分ではあるものの、この程度のことは出来る。
「すまない……。普段はこういうことは全て神官見習いにして貰っているので……」
キリヤ様が頭を下げる度に月を象った銀の額飾りが申し訳なさそうに煌めいた。
キリヤ様だって、神官見習いの時期が有ったはずなのに細かい手作業は苦手なのだろうか。そう思うと自然と微笑ましい気分になってくる。
先程ファロスの目を釘付けにしていた壁の地図にはキリヤ様の筆跡と思しき細かい字がびっしりと書き込まれていたが、字を書くのと食器類を操るのはどうやら異なるらしい。
「いえ、何事も完璧な御方よりも、このように何かが苦手な方の方が私には好ましく思います」
テーブルの上の被害を――というほどではないが――最小限に抑えるように食器類を動かして、話を続けることにした。
「フランツ王国が何故この時期にエルタニアと同盟を結んだのかが腑に落ちませんでしたが、先程からキリヤ様御作成の地図を拝見して分かりました。
これは確かな情報ですよね」
テーブルの上のささやかな惨状を片付けた後に壁へと歩み寄った。
そこには「フランツ王国・ブドウが謎の(多分、何らかの病に因るもの?)枯死」と内容の悲惨さとは対照的な優雅なキリヤ様の筆致で書いてあった。
「そうだ。我が神殿にはフランツ王国からも多数の信者が集まるので、その中には禊を望む貴族も多い。言うまでもないことだが、貴族は独自の領地を持っており、その税収で生活を成り立たせている。その主な収入源の葡萄が謎の枯死をすれば他に活路を見出すしかないだろう」
フランツ王国は内陸国なので、エルタニアよりもさらに海が遠い。そして主産業である葡萄が壊滅的な被害を受けたせいでエルタニアの誘いに乗ってしまったのだろう。
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