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第22話

「キリヤ様とのお話で、さらにフランツ王国の捕虜に流して内部の士気を削ぐ方法を考え付きました」  キリヤ様は椅子に座ったまま、布に沁みこんだお茶の色を消そうと薄紅色の指で試みているのがいかにも「人の子」らしくてファロスの微笑を誘った。聖神官長として紫の絹を纏った姿も神々しい美しさに満ちてはいるものの、こちらの方がキリヤ様本来の姿ではないのかと思えてくるので。  もしそうならば、聖神官としての「神事」は彼にとっては酷なものではないのかという疑念もわいてくるが、今のところファロスにはどうする術もない。 「ほほう『人の和』を崩すという考えか……。して、それはどのような」  キリヤ様は興味深そうにファロスを見上げた。銀の額飾りが月の雫のような煌めきを放っていて精緻な美貌を引き立てて――いや、キリヤ様の端整で繊細な容貌の艶やかさの一部にでもなったようだった。 「エルタニア国の后はフランツ王国から嫁いだ御方――確か現国王の腹違いの姉君だったかと――そして皇太子は申すまでもなくフランツ王国とエルタニア両国の王族の血が混じった方です。その皇太子を廃するという宰相とその娘である寵姫はフランツ王国にとっても敵であると喧伝するのです。  それを聞いたフランツ王国の国王も心穏やかではないでしょう。我が聖カタロニア王国に対してよりもエルタニアに対して矛を向けるという結果になるというのが最良の結果ですが、そこまで行かなくとも同盟の弱体化は必定かと」  キリヤ様は細くしなやかな紅色の指をほの紅い唇に当ててファロスの唇や目に視線を当てていた。 「なるほど、それが良いな……。同盟が瓦解すれば後は各個撃破で事足りる。  瓦解しなくともフランツ王国とエルタニア軍の士気が低くなれば我が聖カタロニア王国の勝率が格段に上がる……」  キリヤ様のほの紅い口角が上がる。優美で繊細な美貌だからこそ、その表情は戦神の凄烈さと強かさを体現しているようだった。 「ファロスが申した『戦死者をなるべく出したくない』というその言葉……。良く分かった」  ジャスミンティを注ごうとするキリヤ様の手からポットを優しく取り上げた。こんなに神の御使いに相応しい人なのに、手先が不器用なのが却って愛おしいと思えてしまって。

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