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第33話

「――ファロスの出番は、捕虜を捕まえてから……、だろう?国王陛下は本隊にいらっしゃると思うので、それに合流すれば事足りると」  向かい合って冷めきったスープを唇に運びながらキリヤが躊躇いがちに口を開いた。 「そうですね。流言をさり気なく流すという手はずは既に整っておりますので、手紙を送った騎兵隊長は戦闘能力も高いですが、この作戦に必須の臨機応変さも兼ね備えていると私は判断しております。ですから上手くコトを運んでくれると思います」  今頃は――土地勘はある上に馴れ切った道だろうが、それでもこの暗い夜の道だ――ファロスの手紙を持った神殿の使者が密かに駆け抜けている頃だろう。  無事に着いてくれれば良いが、不慮の事故とか万が一敵に見つかるようなことは有ってはならないなど――文面には工夫を凝らしたものの、怪しい者として拘束されてしまう危惧は皆無とは断言不可能だ――考え出したらキリがないほどの「嫌な可能性」が芽生えてくる。 「圧倒的な兵力差を備えての――といっても周辺国には単独でそのような動員は不可能だろうが、今回のように同盟を組んだのはその点を踏まえてのことだろうが――戦さであれば、参謀としての心労は減る。ただ、存在感もないのが現実だが……。  ただ、戦さ神様がかつて人の子であらせられた頃の日記を読んでいても、そういう焦りというか私達が今感じているのと多分同じような気持ちの吐露も有ったので、同じ立場の者はそうなるようだ……」  冷え切ったスープを木の匙で唇に運びながらキリヤは、ともすれば他のことを考えてしまう雑念を振り切ろうと努力した。 「え?そうなのですか……。『奇策が出ること泉の如し』とも敵国からも評されている御方でしたよね。そのような方でもお悩みになるのですか」  ファロスも手紙が無事に着いてくれて、その意図を正しく読み取った上で実行して欲しいとの祈りにも焦りにも似た気持ちが、かつての英雄も抱いていたと知って幾分心が軽くなる。 「神殿にしか伝わっていない書物は多数残っている。ただ『神』の威厳を増すために、そういう『人であった頃』の気持ちが書かれているものは神官しか読めない決まりになっている」  ファロスの端整な顔が安心したような笑みを浮かべるのを見てキリヤは嬉しくなってしまっている。

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