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第41話

「我が戦神がお喜びになったのも、そして私も心の底から『待っていた人に会えた』と思ったのもファロスのその戦略のせいだろうな……」  ファロスの顔が太陽の輝きに似た笑顔を浮かべている。 「誠でございますか?  畏れ多くも戦神様までが感応なさって下さったのですね。 ――そしてキリヤ様も。望外の幸せでございます。  私はこの国の民の、いや戦さで国力が損耗するのを防ぐようにと、まずそれを第一に考えただけのことでしたが」  戦神の名前は――当然ながら人であった頃の名前は書物を紐解けば分かるが――神として崇められるようになってからは畏れ多いということで固有名詞は付けられていない。  神とはそのような存在なので当たり前なのだが。 「我が神の存在を、私の身体と一体になったようなあのような感覚は実のところ初めてだ。  確かに神事の際は神の精神の欠片が我が身に宿っていると――欠片の大小は詣でる人間によって異なるのも事実だったが――『あの部屋』では感じてはいた。  ただ、ファロスの言葉を聞いてみたいと思ったり――そして、口づけを交わしてみたいと切羽詰まった思いに駆られたりしたのは、実のところ我が神様の気持ちというよりは、私の気持ちの方が大きかったのではないかと……」  神事には、接吻という行為は含まれていない。それに幼い頃に神殿に拾われて、世俗と縁遠い生活を送ってきたキリヤにとって未知の衝動だったし、勿論そんな行為を他の人間と交わしたこともなかった。  ファロスのことを考えると紅色の心地よさを伴って混乱する気持ちが自分でも良く分からない。 「それは光栄です。つまり……」  ファロスが次の言葉を発しようとしたその時にキリヤの私室の扉が密やかな音を立てた。  紅く染まった頬を薄紅色の指で隠して――といっても、夜も更けていたので神殿内の灯りも最小限なこともあり、顔色の変化に気付かれる恐れはそれほどなかったが――キリヤの純白の衣が月の光りよりも優雅に翻って扉へと向かった。 「そうですか。有難うございます」  キリヤのしなやかで優美な後姿とか見事な髪が背中まで金の滝のように流れる様子を惚れ惚れと眺めながら、ファロスも別れが近いことと、そしてその時間をどうにかして引き伸ばしてしまいたいというせめぎ合う気持ちを感じていた。

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