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第46話
「フランツ王国では葡萄が壊滅的な被害を受けたらしい。そのために活路を見出そうとの出兵らしい」
ゲードの顔が強張ったのも無理はない。腹違いの兄との確執のせいで祖国を飛び出したとはいえ、葡萄畑に対しては愛着を持っているのはこの場に居るファロスが厳選した部下が皆知っている。
エルタニアの元貴族――貴族は農作物を作る側ではなくて税として納められる側だ――のリュカスですら気の毒そうに金の髪を揺らしてゲードを見ている。いかにも貴族的な気品に満ちた顔立ちなので余計にその顰められた眉が「仲間」を慮る心情に溢れている。
「この戦さは可及的速やかに終わらそう。そうしなければフランツ王国の農民が更に疲弊するので。
『エルタニアは聖カタロニアと秘密裏に密約を交わしていて、民からも農地を奪う積もりだ。そして地方地主よりもさらに重い税を課すとも聞いたぞ。国力が弱っているのを利用して』というようなことを農民兵に向けて言うのが効果的だろう。
士気が失われれば勝ったも同然だからな。そして、騎馬兵には『エルタニアに嫁がれたクロージェ様が王太子まで成したというのに、第二王子を王位に就けようとするシュターゼル宰相がクロージェ様も殺害する計画を練っている』と。
ロード、フランツ王国には行ったこともあるだろう。だから騎士たちの言葉遣いを出来るだけ真似て教えてやって欲しい」
リュカスはエルタニアのあらゆる階層の微妙な言葉とか発音の違いまで完璧に再現出来ると豪語している。ただし、聖カタロニアが最も由緒のある国だし、国力も強いので――だから神殿が建っている――周辺国の貴族以上は流暢なカタロニア語を話すことが出来るように教育はされている。
ファロスが王の遣いの一人としてフランツ国に行った時に唯一同行したロードは神殿での役割と同じく、騎士や貴族のお喋りにただ耳を傾けていただけだが、ロードの言葉を覚える能力はこの場に居る人間で最も高い。社交の場に居たファロス――といっても端っこのほうだったが、随行という身分なだけに。
「分かりました。定まった言葉をただ叫ぶのですよね。それでしたら簡単かと思います。相互の意思疎通ではなくて、一方的なモノでしたらなおさらのこと」
隣に座っていたロードが口角を上げて不敵な笑みを漏らした。
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