52 / 54

第52話

「そろそろ刻限が迫っている。王城へ参る。後のことは打ち合わせ通りにするように」  気色ばんだファロスをロードが窺うような眼差しを浮かべていた。それを断ち切るように勢い良く立ち上がった。椅子を壊しそうな勢いで。  キリヤ様との神事は、紫の絹がしなやかな肢体を強調していたし、白磁のような素肌とか繊細な美貌を、艶やかに彩っていたのも事実だった。しかし、行為自体はおおむね淡々を進んだ――ファロスが熱くなってしまって暴走してしまったような気もするが――それはキリヤ様が余りにも魅力的だったからだ。  ただし、いくら紫の衣が古えの英雄でもある戦神の聖なる色で有ったとしても、あんな肌も露わな格好で戦に臨むわけがない。  そう考えると、娼館の男娼が着けるような、商売道具として商品の価値を高めるために、計算され尽くした衣装のような気もする。  そしてキリヤ様が中座してエルタニアの宰相とも肌を重ねたのも、情報を掴むためだろう。人間誰しもが、肌を許した相手には口が軽くなるし、本来は国の機密に属するようなことも口を滑らす可能性がある。  周辺諸国の王族や貴族も多数訪れて神事を授ける代わりに情報を蓄積しているのではないかと思った。それにガストル神官のように気象を綿密に観察している人間も居る。  戦さの場合、例えばまとまった雨が降った後には馬が泥に足を取られて思うように動かせないだとか、キリヤ様が考えて下さったように、奇襲作戦では霧が味方をしてくれる。  そういう意味では「戦さに関する情報の宝庫」が神殿だとも言える。  ファロスのような一貴族ではその程度しか考えが及ばないが、この戦さを可及的速やかに終わらせて国王陛下に神殿の秘密を教えてもらおうと改めて決意した。  今頃は、勇猛果敢な騎兵隊が、急峻な山の狭間の細い道を密集している同盟軍目がけて大きな岩や石を転がり落とした後になるべくたくさんの捕虜を捕らえる計画を実行中だろう。  キリヤ様が仰って下さらなかったら、二隊とも馬で急な坂道を駆け下りるという極めて危険も高い戦法を使っていた。それを岩や石という無生物で防ぐというより人の命を重んじたモノに変更している。それでも戦さである限り、死傷者は出るだろうが。

ともだちにシェアしよう!