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第53話

 王城に単身足を踏み入れると、戦さの前ということもあり、いつもとは異なった慌ただしい感じがしている。 「おお、良く参ったな、ファロス。今しがた早馬でエルタニアの捕虜20名、フランツは15名捕まえたという知らせが参った。  重症者にはキチンと医師や薬師を派遣して、歩けないような人間は数には入れていない。  それはそうと、霧に紛れて石や岩を落とすと考えたのは、流石だな……。そのせいで我が軍の虎の子とも言える勇猛果敢な騎兵隊がほぼ無事だったので、来たる大平原の戦さに備えて休ませておる……」  モルデーネ陛下の重々しい声も戦さの順調さを知った今は少しだけ明るかった。そして王に相応しいひげを満足げに撫でているのは上機嫌の証しだ。  そして玉座の横に背筋を伸ばして佇んでいるカロン将軍も壮年に相応しい黒髪と黒ひげの簡易な鎧《よろい》の陛下とは対照的に白髪交じりの髪と歴戦の武将らしい筋骨隆々とした身体の上に完全防備が可能な鎧を着けていた。といっても、継ぎ目を狙われてしまえば命に係わるが。  そのカロン将軍も満足そうな笑みを浮かべてファロスを見下ろしている。 「兵士、それも騎兵ならばなおさら育成には手間も時間もかかる。そのことを思えばファロス伯の奇策は見事だった。  しかし、私が聞いておったのは、決死の覚悟で二隊ともが駆け下りるという作戦だったハズだが」  戦支度――神殿の「表向きの」色でもあり、王の証しでもある黄金の兜《かぶと》までかぶり終えた国王陛下は玉座の上からファロスを見下ろしている。 「はい、当初はその積もりでしたが、我が軍の精鋭中の精鋭ですので、死傷者は可能な限り出したくないので、一存で変更しました」  普段は温和な国王陛下だが、戦さの前なので平常心は保てないだろう。逆鱗に触れるかも知れないが、それでも良いと思った。  何しろファロスも、そしてキリヤ様も「人死にがなるべく少ない」戦法を目論んでいる。  詳しく聞いたわけではなかったが、敵味方両方に亘ってという感じだった。

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