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コインランドリー・デートスポット

春麗らかな今日この頃、さっそくだが共同アパートに備え付けられていた洗濯機が壊れた。まったくもって幸先が宜しくない。 何故壊れたのかは分からなかったが、佐倉 要人(さくら かなめ)はどうせアパートに住まう、独り身男性集団の粗雑な扱いに耐えかねたのだろうと推測する。どこまでも続く地平線のように果てしない偏見を宿した眼差しを空がしてしまうのは、夜中になろうが耐えない隣近所の治安の悪さのせいなのは確実だ。 日頃適当に扱ってきた洗濯機だが、なかったらなかったらで大変な不便を強いられる。家電の代表作品とも賞される彼の利便性をひしひしと再確認させられる。なにせ、服が洗濯できない。洗濯できなかった服やら下着やら靴下が部屋の隅で山となり、日を追うごとに山頂を更新していく様を見せつけられるのは、こう、なんだ。精神的にクるものがある。  こんな時に彼女の一人や二人いてくれれば、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたりもしてくれるんだろうか。佐倉は恋人と称して良い女性を思い浮かべようとしたが、結局空しくなるのは自分だけなのでやめておいた。洗濯機が壊れてただでさえナイーブなのだ。自らを追い詰めようとする空想を振り払い、取っ手が片方外れかけている洗濯籠を持ち上げて家を出た。  それで洗濯機が壊れた話はまだ続く。更に悪いことに、家賃が安く、室内が少々古臭い事に定評のある佐倉のこのアパート。なんと洗濯機が一つしかなかった。このご時世に共有洗濯機が一つだなんて、なんとも言えない。呆れて物もいえない。物も洗えない。  当然管理人を呼び壊れてうんともすんとも言わない洗濯機を見てもらった。結局「よく分からない」という曖昧な言葉を管理人はもらす。おい、冗談も大概にしてくれ。さも自分が機械に詳しいという振る舞いで洗濯機を叩いていたというのに、なんだその素人まっしぐらの答えは。 視線に非難を込めると、管理人は慌ててこう言い張った。原因が分からないためまずは原因から調査する。修理するか買い換えるかは、それからなので、時間がとてもかかるだろう。オッサン、アンタの綺麗に磨かれた頭を更に磨いてやろうか。そんな悪態は喉の奥に流し込んだ。

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