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コインランドリー・デートスポット

さて、いつ洗濯機が復活するのかも当てがない状況下で、とれる選択肢は少ない。 佐倉は今年の春大学に入ったばかりの学生だった。法律学科として勉学に励む彼の生活はとても潤っているものとは言えない。しかし毎日洗いもせず同じ服を着続ける事はしたくない。汗が染みついたシャツで爽やかなキャンパスを歩く訳にもいかなかった。密やかにつけている家計簿に「コインランドリー代」という項目がこっそり追加されたのだった。 面倒くさいけど、仕方ないか。背に腹はなんとやらだ。 その日から2、3日に一度のペースでの佐倉のコインランドリーライフが始まった。とてもとても不服なものではあったけれども。服を洗うだけに。らしくもないダジャレを脳内で繰り返してしまうほどに面倒臭かった。 最寄りのコインランドリーは徒歩二十分足らずの場所にある。今までは大学の帰り道に通りかかったり、連日の雨の日にお世話になるぐらいしか利用機会が無かったここに、いつまでかは分からないが厄介になる。 今日も今日とて佐倉は溜まった下着や上着を籠に無理やり詰め込み、自転車を走らせた。自転車だと時間を短縮できるし、荷物は籠に詰める。五月に入ったばかりのこの季節独特の若葉の香りが鼻を過ぎる。 狭い路地裏を曲がると、かみ合っていないコンクリートの側溝に前輪が乗り上げて、籠が大きく傾いた。反射的に片手を伸ばしながら先を急ぐ。 育ちすぎて庭に収まっていない木々が作り出した影の下をくぐりペダルから足を離す。ゆっくりと減速していく自転車。佐倉は「昭和町コインランドリー」の看板を見てブレーキを掛けた。

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