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コインランドリー・デートスポット
年季の入った壁には枯れそうな蔦が巻き付いており、お世辞にも綺麗とは言えない。ここが最も近場のコインランドリーだ。洗濯機の数も店の大きさも機能も、街中のランドリーには劣る。その分利用者数も少なく、ゆっくりした雰囲気が流れていた。
数台しかおけない自転車置き場に自転車を置き、籠を手に持つ。片方の取っ手が外れかけていたことを一瞬忘れていて、バランスを崩しかけた籠を慌てて支える。二度も同じ轍は踏みたくない。
中から生温かい空気が流れてきて佐倉を出迎える。ここは日当たりが良く、室内に温い空気が籠もりやすい。
適当な台を選んで硬貨を入れ洗濯機を操作する。ここは洗剤洗濯も取り扱っているので後はもう放っておけば勝手にやってくれる。ただ洗濯終了時間まで時間を潰すだけだ。財布を適当に横に置いて、ぎしりと泣くソファに腰を下ろした。
一度家に帰ってもいいのだけれど、何時間も待たされる訳でもないし、暇つぶしの参考書なら常に持参しているので問題は特に無い。
付箋が貼ってあるページをめくる。いつも通り小難しい法律関係の参考書を睨み付けている間に、ごぉんごぉんと洗濯物を咀嚼する洗濯機が止まり、満足げな終了音を告げるはずだった。
参考書の味を噛みしめるように冒頭から読み直していると、からからと響く入り口。
珍しいな、こんなところに人が来るなんて。少しばかり興味をそそられた佐倉が目線を参考書から入り口へずらす。このコインランドリーは小さいし「昭和町コインランドリー」なんていう古風な店名のせいか利用者が少ない。佐倉がここで時間を潰している間に誰か来るだなんて滅多になかった。いやよくよく考えれば此処で誰かに会うのは始めてかも。どれどんな専業主婦がやってきたのかな、なんて軽い気持ちで顔をあげた彼は息を飲むハメになる。
専業主婦なんてとんでもない。座っている佐倉よりも遙かに高い位置にある頭部。身長なんて比べるだけおこがましい。相当大きい。ゆるく後ろで縛ってある尻尾毛がぬるい空気に揺れている。目元にかかった前髪の下から覗く瞳は細められていた。
不機嫌なのか、彼も花粉症に目玉をやられているのか判別がつかない分、更に恐怖感を煽る。このコインランドリーには不釣り合いな人種だ、と本能が悟った。
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