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服従の証

本気で舐められるかと思って目をきつく瞑った。見たくないだろそんなもん!ドキドキしながら甲斐田から目を背け続けた。 現実から逃れる術が見ることの拒絶しか見当たらない現状に嘆く。蹴り飛ばすか。いっそのことサッカーボールみたいに蹴り転がしてやるぜ!と意気込んだ瞬間、息と共に少しだけ楽しそうな声音が零された。 「冗談です」 「は?」 きっと俺の面は情けないものに違いない。驚きのあまり瞼を持ち上げた。俺を戸惑わせた張本人は既に立ち上がって膝の汚れを払っている。恐る恐る下の方角に目線をスライドさせた。 ぐっちゃぐちゃに絡まっていたはずの靴ひもが、綺麗にほどかれている。もう修正不可能かなぁって軽く絶望するぐらい固い結び目は、なくなっていた。 「甲斐田が解いてくれたのか?」 「はい。手間取っていたご様子だったので」 しれっとネクタイを締め直す仕草が無性に頭にくる。あれだけ人を混乱させておいて済ましやがって。 「だったら、舐めたいとかいうのは冗談?」 確認の意を込めて聞いてみたら、こくりと首を縦に振られる。 「はい。まさか本当にしてほしかったのですか?だったら貴方はご主人様の素質がありますね。手始めに踏みつけるところから始めましょう。靴を履いたおみ足で背中を踏んで、蔑んでいただきたい。無表情野郎と罵られたい」 「誰がそんなことするか!」 無表情って自分で理解してたんだね!だったら直せや!欠点を直そうという努力をしない奴は駄目なんだぞ!徐々に地道な努力を重ねていったら素敵な自分が見つかるかもしれないだろ!変態じゃない甲斐田自身が発見できるかも知れねだろ! 「お前がそんなことしたら冗談に思えないからやめろ!」 叱ると真顔で「申し訳ございません」と謝られる。絶対反省してねえだろ。 ただでさえ普段からそういうMっ気のある行動をしている奴がこんなことをしても嘘だと見抜けないし、笑えない。変な汗までかいた。 あーヒヤヒヤした。危うくそっちの世界に引きずり込まれるところだった。もう一度言っておく。俺はおっさんに靴を舐めさせる趣味は皆無だ。 胸をなでおろす俺の頭上で、甲斐田はそっと呟いた。慌てる貴方はとても愛らしかったですよ。なんて憎まれ口!うるせえ!胸にパンチを繰り出したけどあっけなく止められる。 畜生殴られろ!こういうときこそ殴られろよな!俺はもうお前がわからない!わからないよ!

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