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Chapter 1 :オズワルド視点

「セルジオ、もう行くぞ。予約の時間に間に合わなくなる」 いつものように慌ただしく外出の準備をするセルジオを見やって、呼びかけた。 「分かってるってば! もう準備できるから、もうちょっとだけ待ってて!」 外出の度に飽きるほど見た恋人のこの様子は、いつもなら多少腹立たしく思ってしまうこともあるが、これも今日で2年目と思うと少し感慨深いものがある。 もう随分前から、友人として付き合っていたが、晴れて恋人となってからは、今日で2年。 相変わらず忙しなく動き回り、どう見ても非効率的な順序で身支度する彼を横目に、ふと2年前を思い出す。 友人という垣根に憚られ、なかなか前進できないことに焦れて告白したのは自分だった。玉砕覚悟……その上、彼の友人という資格さえも失うかもしれないという恐怖もあった。それでも、そばにいるだけで触れることも出来ない関係では我慢できなくなり、腹を決めて思いの丈を伝えた。 今考えてみても、あの瞬間は、今までの人生で指折りのひと時だった。 上手くはいかないと思うけど、せめて思いだけでも、と自分の好意を伝えると、彼は驚いたように、大きな双眸を見開き、俺を見上げた。その顔に、軽蔑や侮蔑の表情が浮かんでいないことに安心したのも束の間、彼の瞳は潤み始めて、大粒の涙を溢れさせた。 いつもは快活で、溌剌としている彼の、突然の涙に当惑し、なすすべも無くその様子を見つめた俺に、セルジオは震える声で言った。「俺もずっとお前が好きだった。けど、同性だし、友達だし……付き合うとかは、もう無理だと思ってた」と。 難解な単語なんて一つも含んでいない台詞なのに、その意味を飲み込むのに、数秒かかった。 つまりは両思いで、彼の涙は嬉し涙だった、と理解した自分は、気がつくと彼をきつく抱きしめていた。胸に収まる愛しい存在を感じながら、高まった鼓動と、熱くなった胸はいつまでも収まらず、長い間抱き合った。 と、そんなことを追想しているうちに、セルジオも準備は済んだようで、出発の時間が遅れたことで、少しばかりバツが悪そうに俺の手を取った。 思い出に浸っている内に溢れ出した愛しさを収めるために、セルジオの唇に一つキスを落とし、握った手を少し強めて、家を出た。

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