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2人の会話を聞きながらも問題を解き終え、エシリルさんに紙を手渡した。彼は僕の回答をチェックするとこちらを向いてにこりと笑った。 「読解記述も大丈夫ですね。では最後、バインドがちゃんと機能するかチェックしましょう」 バインド?と頭にハテナが浮かんだとき、ヘイデン様も同じことを思ったんだろう、「バインド?」と聞き返した。 「そうです、バインド。これは今までのヒューマノイドにはなかった新しい機能ですね。今までの機体は主人の言葉全てに忠実に従いました。でも今回のタイプは自分の考えや感情を持っています。そのため、主人の命令を汲み取れなかったり、従わなかったりすることが出てくるかもしれません。そういう時に、強制的に命令を実行させる機能です」 これは、無理矢理行動を強制されるってことだ。でも僕はご主人様に刃向かったりはしないし、多分これを使われることはあまりないだろう。 「バインドをかけることが出来るのは主人となった人間だけです。起動した時と同じように、胸に手をかざし、命令を出すことで発動します。セシルくんは、バインドをかけられると命令通りに体が勝手に動くけど、心配しないでね。自分や他人を傷つけるような行為は命令されても発動しませんから」 「なるほど……そういう機能もあるのか」 感心したようにヘイデン様は呟いた。 「目的の達成、もしくは、もう一度手をかざすか、主人の声でバインド解除、と言うことでバインドは解除されます。取り敢えず、やってみましょう」 こちらへ、と言うエシリルさんに誘導され僕の前に来たヘイデン様は、新しいおもちゃを得た少年のような、なんだか少し変な顔をしていた。 「では取り敢えず、あちらにおいてある箱を取ってくるようバインドをかけてみましょうか。ヘイデン様はセシルくんの胸に手をかざして命令してください。セシルくんは自分の意思では動かないでね」 ヘイデン様の掌が胸に向けられると、じんわりとした熱がそこを中心に広かった。 「向こうの机に置いてある白い箱をもってこい」 そう命じられた瞬間、胸が焼けるように熱くなり、体からガクッと力が抜けた。そのまま倒れ込んでしまうと思い、ぎゅっと目を瞑って衝撃に備えたが、いつまでたっても衝撃はこなかった。恐る恐る目を開けると、自分は既に机に向かって歩いていた。 う、わ……本当に勝手に動いてる。自分の体なのに、何かに乗っ取られてるみたい。意識と視界は自分のものだけど、体の感覚はないし、声も出ない。 僕の体は、箱を手に取ると、振り返ってヘイデン様の方へ歩いて行く。自分の意思に関係なく体が動くのはなんだか気持ち悪い。 箱を手渡した瞬間、体に感覚が戻った。酷く疲れてその場にしゃがみこむと、ヘイデン様が背をさすってくれた。 「バインドは、感覚を遮断して機体を動かすため、負担が大きいんです。あまり多用はなさらないでくださいね」 頷いたヘイデン様は、心配そうな視線をこちらに向けると、僕を支えて椅子に座らせてくれた。 「ちなみに、恥ずかしい格好を強制して楽しもうとか思っても無駄ですよ。感覚は遮断されてるので、セシル君は触れられても何も感じませんからね」 エシリルさんがニヤリと笑ってそう言ったが、あまりの疲労感に、その言葉に反応することすら億劫だった。 ヘイデン様もこんなの時に何言ってるんだ、みたいな顔をエシリルさんに向け、ふと思いついたであろう質問を彼に投げかけた。 「人に危害を加えるような命令以外なら、バインドは必ず作動するのか?」 「基本的にはそうですね。バインドの仕組みを簡単に説明すると、一時的に従来のヒューマノイドの設定に切り替えている、といったものでしょうか。セシルくんの気持ちや感情を押さえつけて、絶対的主人優位の設定に切り替えるんです。これが出来るのはセシルくんの心の中を一番多く占めている人物だけなんです。つまり主人のヘイデン様ですね。主人以外にはそれほど大きな好奇心や興味を抱かないように設定されているので、バインドをかけると、必然的に主人の言うことだけをなんでも聞くようになります」 そうなのか、と呟くヘイデン様に、エリシルさんは頷いた。 「さて、セシルくんも疲れたでしょうし、今日はこのくらいにしましょうか。検査で不具合も見られませんでしたし、初期問題はありません」 では帰ろうか、とこちらを伺ったヘイデン様に頷き返して、立ち上がる。未だに少しフラつく足元に気づいたヘイデン様が、僕を支えてくれた。 研究所入り口まで来た僕らに、エシリルさんは、忘れていた、と言うように問いかける。 「ヘイデン様、出来ればセシルくんに主人以外の人とも関わる機会を作っていただきたいのですが、可能ですか?」 ヘイデン様はさして迷うこともなく返答した。 「ああ、私が仕事に行くときは一緒に連れて行こうと思っている。そこで私の部下たちと交流できるだろう」 僕、ヘイデン様のお仕事にも連れて行ってもらえるみたい。……凄く嬉しい。もっと役に立てるようになりたい! 「それは良かった! ではまた2週間後に」

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