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第1話
「弱いということは悲惨だ。なにかをするにしても、なにかに耐えるにしても」(ジョン・ミルトン「失楽園」より私訳)
丸く描かれた魔法陣の上で、その少年は白いローブをはだけさせて、同じ衣装を着た白い頭巾を被った男たちに愛撫されながら、その身を貫かれていた。
「う…っ、くっ……は…ぁ、あっ」
何度も突き上げられて力なく伸ばされた、美しい肢体が陸に打ち上げられた死ぬ前の魚のように時々びくりと痙攣した。
まるで薔薇が雨で散る時のように、少年は瞳を涙に濡らしながらも声を押し殺してじっと耐えている。それを見ていたアントワーヌは、そのいじらしく噛みしめられた唇に自らの舌を差し込んで味わいたい衝動に駆られた。
初めの頃は儀式のたびに嫌だと泣き叫んでいたのに、近頃はいつもおとなしい。
どうしようもないことだとわかったのだろう。
代々、天使のように輝くばかりの美しさを誇るダンジュー家の長男には、秘密の役割があった。先祖の占い師の霊を降ろす霊媒としての役割だ。魔法陣の中で長男が性的なエクスタシーを迎えると、その空白になった頭の中に先祖が降臨する。
ダンジュー家はそうやって交霊することで、長らく歴史を生き永らえてきた。元来エクスタシーは宗教的法悦の意味だし、性行為を通して高位の存在と交歓する宗教や魔術は少なくない。
彼がその霊媒の役割を担わされるのは、生まれた時から定められていた運命だった。
それを受け入れたようなふるまいを見せつつも、本当は嫌なのだろうと思いながら、アントワーヌはそれでもいつも少年の上気した傷ひとつない肌から目を離すことができない。まだ十代なかばの美しい肌。
美しくうねる金髪の間から覗く眉は苦しそうに顰められている。苦痛に満ちた表情は子供ならではのあどけなさが残り、その名のとおり天使のように美しかった。我が手で犯してやりたいくらい。
「あ…あああ……っ!」
ひときわ高い声がして、少年が身を震わせた。少年の顔が大人びたものに変わる。今までとはまったく異なる低い声で、彼は口を開いた。
「退け」
途端に彼にのしかかっていた男たちが離れ、跪いた。その場にいたその他の男たちも跪く。みな白衣のローブを身につけている。男たちに合わせて、アントワーヌも姿勢を下げた。
「ラファエル様!」
男たちが歓声をあげた。物憂げな表情で少年は口を開く。
「まったくおまえたちはどれだけ頻繁に私を起こすつもりだ?」
「申し訳ございません。しかし緊急事態なのです」
「言ってみろ」
「皇帝ナポレオンがプロイセンで捕虜になってしまったのです」
少年の笑い声が響き渡る。
「ふ、くく…っ、あのスフィンクスめ、みっともないものだなあ! 捨て置け。もうおまえたちに皇帝を持つのは向いていない」
「ラファエル様、それでは私たちは……」
「ああ、共和制でも押している連中とつるんでおけ」
「はっ」
「では俺はもう帰る。あまり俺ばかりに頼るな」
そう言うと少年は崩れ折れた。途端に男たちはざわめき出す。
先ほどまで少年を犯していた男──一族の『幹部』だ──がアントワーヌに目をやった。
「アントワーヌ。アシール様を頼む」
自分の役割はわかっている。頷くと倒れたままの少年を抱き上げた。少年は意識があるのかないのか、うつろな表情で彼方を見ている。これもいつものことだった。
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