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第1話
広いベッド、ジャグジー付きのバスルーム。
大画面のテレビには、嬉しい有料チャンネルが追加されているラブホテル。
なんとも大人でエロチックな雰囲気が漂う室内に初めて足を踏み入れた俺は、緊張と少しの戸惑いと…それから、大きな興奮を抱いている。
「…あの、俺こういうの初めてなんですけど」
そう呟いた俺は、普通のサラリーマン。
そこら辺にいる人混みの中に紛れて生きている25歳の独身男性だ。名前は、小林 拓真(こばやし たくま)で、長所は真面目な性格、短所は寂しがり屋なところだと俺は勝手に思っているのだが。
ありがたいことに、顔面偏差値は上の下くらいの悪くはないルックスなのにも関わらず、俺は25歳を過ぎた今でも童貞を守り続けているのである。
思春期の頃から正統派イケメンなんて周囲の人から言われていた俺は、女の子からチヤホヤされる機会も少なくなかった。
…少なく、なかったんだ。
それなのに、それなのにっ!!
高校時代に初めて付き合った彼女とは、長所を活かした恋愛をしてみたものの、真面目過ぎてつまらないと俺は呆気なくフラれてしまった。
大学時代に告白された彼女には、あえて短所を見せてみたものの、うっとおしいと嫌われてしまった。
学生時代は手を出すのが早い男だと思われたくなくて、必死に我慢していた性欲。社会人になってからは童貞と告げる勇気がなく、未だセックスの一つもしたことのない男だと思われるのが怖くて我慢に我慢を重ねた性欲。
身なりを小綺麗に整え、笑顔を振り撒けば。
俺には結構すんなり彼女は出来るのだが…キス以上の行為まで踏み込めないでいる俺は、世の女の子から見事なまでにフラれ続けているから。
俺は次第に、彼女を作る行為自体を諦めるようになって。真面目過ぎる性格と臆病な心が俺の性欲の行く手を幾度となく阻み続けて現在に至っているのである。
そんな俺が童貞だと唯一知る人物、小学校からの親友に勧められてつい最近始めたのが、スマホのマッチングアプリ。25年間、顔は良いのに未だ童貞で生きている俺を不憫に思ってくれたらしい親友は、必ず出会えると噂のアプリを俺に紹介してくれた。
それが、今から一ヶ月前のことで。
今の俺は、マッチングした相手と出会うことに成功したはずなんだけれど。
「キミは、初めての相手が俺でいいのかい?」
俺の目の前にいる人は、俺と同じ性別だったのだ。
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