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第10話
「タク、キミの気持ちはとても嬉しいけれど…キミは、童貞を卒業したいんじゃないのか?」
俺の脚に絡まるように、引っかかっていたのはリョウさんが着ていたバスローブ。素肌のリョウさんに抱き着いている状態の俺に、リョウさんは本来の目的を語る。
「あ…まぁ、ハイ」
…そりゃ、もちろん。
一生童貞で魔法使いになるのは嫌だが、俺はそれ以上にリョウさんとの繋がりが失われてしまうことの方が嫌で。
「でも、俺はリョウさんになら何されても大丈夫だと思いますよ?」
確信は持てないけれど、思ったままを声にした俺は、クスリと笑うリョウさんに尻を撫でられた。
「キミは…あまりオッサンを煽らないでくれないか。まったく、本当に可愛いことを言うんだから」
俺が知らない女の子の気持ち、それを知ることが出来れば俺は一人前の男になれると思っていたのに。
訪れた現実は…リョウさんの彼女役なら、俺はとてつもなく幸せで大事にされているという安心感を得られることだった。
それが、恋心かどうかはイマイチよく分からない。
酒の所為、好奇心、その他諸々の理由を並べても、しっくりくる言葉は見つからないままだけれども。
童貞で、初めてのラブホテルでオナニーしている現場を目撃され、そして下半身丸出しで土下座した俺を可愛いと思ってくれる人は、きっと…リョウさんしかいないと思うから。
「また、会ってくれますか?」
「キミが望むなら、幾らでも」
離れたくなくて、離したくなくて。
俺から問い掛けた言葉に頷いてくれたリョウさんは、よしよしと俺の頭を撫でてくれるけれど。
「キミには悪いんだが、タクは一生童貞のまま俺に抱かれてほしい。ダメ、かな?」
偶然なのか、必然なのか。
本当に出会えたマッチングアプリ。
その相手は男で、俺は本来の目的を何一つ果たせないままリョウさんとの第一夜を終えようとしているんだが。
「リョウさん、そりゃないッスよ」
笑ってそう言った俺の唇に、ふわりと重なる甘い唇。終わると思っていた夜は想像以上に長く、そして…俺は童貞を守り続ける代わりに、リョウさんにこの身と心の全てを差し出して。
この先、俺とリョウさんに第二夜が訪れることとなるのだけれど。
───それはまた、別の機会に。
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